恋は幼き
「・・なんか亜梨花、今日一日中機嫌よさそう」
「そう?」
翌日の学校。放課後にルカが私の顔を覗き込んでくる。昨日結局、帰った後も佑介と連絡を取り合っていた。男女のそれのような会話はしないが、久しぶりに話せた幼馴染との会話は驚くほど、弾むものだった。そんなことを考えていると、ルカはいつの間にか彼氏の話を始める。話しても話しても飽きないルカの様子に、ついついあくびが出てしまう。下駄箱へ向かう廊下からふと外を見ると、曇り空が空を覆っていた。
「ねぇルカ、傘って持ってきた?雨降りそうなんだけど」
ルカを見ると、両手を広げしかめっ面をした。ルカも持ってきていないようだ。今日の天気予報は晴れだったはずなのに・・。私の気持ちにまで、雲がかかったような気がした。
「わー、ホントに雨まで降ってきっちゃた・・亜梨花どうする?」
「うーん」
下駄箱で、ルカと立ち止まる。私たちのほかにも何人かが、雨空を見上げていた。
いい案が浮かばないまま時間が過ぎていく。
「まぁルカ、今日はバイト休みだからいいけど・・ルカ、じめじめしてるの嫌いー」
「どうする、戻って雨が弱まるまで教室にいる?それとも先生から傘借りたりする?」
「借りに行こうかなー」
職員室までをルカと歩く。ふと、佑介のことを思い出した。今日も卓球の練習をしているのだろうか。雨になるといつもはグラウンドにいる部活動生が体育館に来る。そのせいで集中できない、みたいなことはないのだろうか。
「ねぇー!亜梨花聞いてる?」
「え?」
どうやら、私が考え事をしている間にルカが何か話していたらしい。
「ごめん。他のこと考えてて・・。何の話?」
「だからー!ルカの彼氏のこと!LINOが全然返ってこないの!」
「全然って、いつから?」
「昨日の昼から!いつもなら、遅くても何時間か後に返してくれてたのにー」
「なんか怒らせたとか?」
「ううん。だって私が最後に送ったの、次はいつ会える?、だもん」
「確かに怒るようなのじゃないね・・。その前までは普通に返してくれてたの?」
「うん」
「だったら、たまたまなんじゃない?」
「寄りにもよってデート誘ってるLINOを見過ごす!?」
「まぁ、そうだけどさ」
「むー」
あれこれしている間に職員室へ着いた。傘の旨を伝え二本借り、私たちはまた下駄箱へ向かった。
「全っ然、雨脚弱まってないんですけどー!」
「雷がなってないだけいいじゃん」
「まぁね・・。今日はルカ、走って帰る・・。亜梨花、風邪引かないようにね!ばいばい!」
「そっちこそね!ばいばい」
正門前でルカと別れ、帰路へ着く。昨日の佑介と並んで帰った記憶が鮮明によみがえる。仲直り(私が一方的に避けていたわけだが)もでき、本心から応援できた。本当に良かった。
「・・・あれ?そういえばなんで昨日は佑介に会えたんだろう」
高校に入学してから、私の帰路はずっと同じだ。なぜたまたま昨日会ったのだろう。
「まさか・・お母さんが私の帰り道まで佑介のお母さんに話したとか・・?」
ギリギリありうる話だ。確か二人は仲が良かった記憶がある。もし、仮説が当たっていたらプライバシーなんてあったもんじゃない。
「・・まぁ、そのおかげで仲直りできたからいいけど・・」
「なに、ブツブツ言ってんの?」
「!・・佑介!」
「おい、雨で肩濡れてる」
「あっ、本当だ」
噂をすれば、というやつだ。でも二日連続で会うだなんて、あり得るのだろうか。
「今日練習は?」
「ん?休み」
「休み?昨日は?」
「昨日も休み」
「・・全国大会前なのに、休みが二日連続なんてあるの?」
「ないよ?本来ならね。でも、全国に向けて張り切りすぎてさ、監督から休め!って言われたんだよ」
「練習するにこしたことはないんじゃないの?」
「そうなんだけどさ、目つきがやばかったらしくて(笑)」
「ちゃんと寝てなかったりしたの?」
「・・正直この一週間は、相手選手の研究とかしてて。ちゃんと寝てなかった」
「え?昨日もそんな状態だったってこと?」
「いや、一昨日からは反省してちゃんと睡眠取ってるよ。まぁ、監督から許可が出たから、明日からまた練習再開だけど」
「そっか。やっぱり大変なんだね。練習って」
「全国目指してるし。そりゃあな。・・・試合見に来る?」
「え?」
「会場は県外であるんだけど、母さんたち車だして見に来るんだよ、だから!・・亜梨花も来る?」
「テレビにも映るんでしょ?」
「・・あ、うん。そう聞いてる」
「だったら、今回はテレビでいいかな。なんか、現地まで行ったら彼女、みたいだし」
「・・・」
数秒間沈黙が流れた。自分で言っていて「彼女」という単語に気まずくなった。思えば、私たちは高校一年生の男女だ。しかも幼馴染でもある。「恋人」という関係になる可能性は充分なほどにあるのだ。・・まぁ、一方的に縁を切っておいて、そんなこと思える立場ではないのだが。
「・・・とにかく!今回はテレビから見守っとくよ」
「・・・俺、別にそんなつもりじゃなかったんだ」
気まずくなり、少し早足になると佑介の寂しそうな声が聞こえた。振り返ると、佑介は俯いて立ち止まっていた。
「佑介・・?」
「俺は、やっと亜梨花と仲直り出来て嬉しくて・・。だから誘ったんだ。別にそういう恋愛感情とかじゃなくてさ・・」
「・・いや、私もそんな顔させるつもりじゃなくて・・。ごめん」
「いや、こっちこそ。誤解させるようなこと言って、ごめん。帰ろう」
そういうと、佑介は声に負けないくらい寂しそうな表情をしたまま私を通り過ぎた。あぁ、私はなんて幼稚だったのだろう。また一方的に勘違いしてしまった。通り過ぎて行った佑介を追いかけた。
「俺さ、昨日言ったみたいに今は彼女作る気なくて・・」
「うん」
「でも、なんか俺誤解させやすい喋り方してるみたいでさ。少し前にも学校でそういうトラブルあって」
「トラブル?」
「いきなり友達から、お前隣のクラスの子と付き合ってるんだって?って言われて。身に覚えがなかったから、詳しく話聞いたら、前にその子が卓球の練習見に来た時に、もっと見に来て欲しいって言ったのを告白?みたいに捉えたらしくて」
「・・なんでそんなこと言ったの?」
「その時、その子が練習場をチラチラ見ててさ。なんか用?って聞いたら入部しようか迷ってて、って言ったんだよ・・。だから、だったらもっと見に来て欲しいって言ったんだ」
「あー・・なるほど」
「その噂が出てから、それまでに部活に集中したい、って言って告白を断った女子たちにどういうこと?嘘ついたの?みたいに連日呼び出されて、いちいち説明して・・。それがあって、俺ちょっと参っちゃってさ・・」
「うん・・」
「だから・・彼女って単語出されるの今、きついんだよ」
「そっか・・。ごめん、そんなこと知らなくて」
「言ってないから当然だよ。謝らなくていい。でも大会誘ったのは、本当にそんなつもりじゃなかったってことだけはわかっといてほしい」
「うん、わかった」
「じゃあ、俺はここで」
「うん。・・ありがとう、送ってくれて」
「ううん。じゃあな・・」
佑介の暗い後ろ姿を、見えなくなるまで見続けた。
何故だか胸が痛んでいた。
とても久しぶりの投稿となってしまいました・・。すみません。
物語が又大きく動きました。今後の展開、どうなっていくのでしょうか。どうぞお楽しみに!早く更新できるよう頑張ります。




