私の彼への本当の気持ち
「嫌なこと思い出したなー・・」
薄い毛布をかぶり、携帯を取り出した。誰からの通知も来ていないロック画面に寂しさを覚える。ルカはまだバイトなんだろうか。連絡したら悪いか、と携帯を枕の隣に置いた。私の部屋から廊下を挟んである、リビングから春の歌が聞こえてくる。
「もうすぐ夏になるのに・・」
目を閉じると、いつのまにか眠ってしまった。
次の日の夕方。
「ねぇせっかくだから写真見せてよ!」
「ダーメ!」
「えー。いっつもルカ、彼氏の写真見せてくれないよね」
「好きになったら困るもん!秘密!!」
ルカは彼氏の写真を見せない。高校に入ってから何人か彼氏はできたものの、一度も見せてくれないし、私以外の子にも秘密にする。多分過去に何かあったんだと思う。
「まぁいいけど。出会いは何なの?」
「あのね、バイト先にたまたま来て、ルカが一目ぼれしたの!それで連絡先渡したら、連絡してきてくれて!そこから!」
「えっ?じゃあLIN〇で告白って感じ?」
「うん、ルカから」
最近の子はすごい。私も最近の子の側だけど、切実に思う。告白といったら直接か、せめて電話。そんな私の中の常識は当に無くなってしまったのか。
「じゃあまた来週ねー!」
「ばいばーい!」
今日もルカはバイト。私はいつものように一人で帰る。寄り道するような店は帰り道にないし、イヤホンを耳につけ適当な音楽を流した。好きでも嫌いでもない歌手の声が耳に入り込む。空を見上げると青空がオレンジに変わり始めてた。
トントン
肩をたたかれた。振り向くとそこには、にこにこ笑った佑介が立っていた。
「・・・は?」
おもわず気持ちが口に出た。佑介が何かしゃべっている。・・この状況、どうすべきか。逃げてしまうか、知らない振りをするか。二択だ。流れている音楽のちょうど速いテンポの曲で、私の焦る気持ちを表しているようだった。
「だからイヤホンはずせって」
突然、左耳から音楽ではない佑介の声が入り込んできた。何事と思い、佑介を見直すと佑介の右手にはイヤホンが握られていた。
「・・勝手に外さないでくれる」
不機嫌な口調で言い放った。
「だってせっかく久しぶりに会ったのに、お前イヤホンはずさないから」
佑介は私の右耳のイヤホンもはずした。逃げ場がなくなった気がした。
「久しぶり、亜梨花」
「・・・」
「別々の高校に通ったら、やっぱなかなか合わないもんなんだな・・会うだけじゃなくて、喋ったのもかなり久しぶりだよな」
「・・・」
「中3の秋ぐらいから一切喋んなくなったもんな」
「・・そうだっけ」
「お前俺のこと避け続けたじゃん。今もそう」
何?いま私責められてる?ひどいことしたのはあんたなのに。
「俺・・寂しかったよ、今だから言うけど。部活ない日は一緒に帰ってたのに。あの日以来それがなくなってさ」
「・・・」
「・・・俺なりに、気を使ったつもりだったんだよ。二者面談の奴は。言い訳になるけど・・。亜梨花は落ち込んでんのに、俺は喜ぶとか・・できねぇだろ」
「・・・・・じゃあ、嘘つけとか、なぐさめてとか、私言った?」
「言ってないけど・・」
「だったらなんで!?嘘つかせて、同情させるとか、みじめじゃん!」
沈黙が流れた。佑介は何も言い返せない様子だ。てか私、こんなに引きずってたんだ。もう割り切れてると思ってた。
「・・ごめん。でも私、あの時本当に、すごく、傷ついたの」
「・・うん」
「あの時、男子で一番仲良かったのも、信用してたのも佑介だったから。だから、ショックだった。でもなにより・・」
「・・?」
「佑介に嘘つかせたのが申し訳なかった」
え・・?私そんなこと思ってたの?口から出た言葉は、自覚していない思いだった。
そうだ・・。私、友達から佑介の推薦の話聞いたときに、一番に思ったのは「佑介に嘘つかせてしまった」ってことだった。その罪悪感がいつの間にか上書きされて、「佑介が嘘をついたのが悪い」ってなったんだ。忘れていた。佑介のこと自体忘れようと思って、その罪悪感も消えた。
「・・亜梨花、そんなこと思ってたの?」
「・・そう、みたい」
答えたはいいものの、なんだか恥ずかしくなってきた。私、佑介が嫌いって思って避けてたんじゃなくて、申し訳ないって思って避けてたの!?なにそれ・・。
「そうみたいってなんだよ!」
「わっかんないよ!!私も今自覚したの!」
私って恥ずかしい奴。思わずため息をついた。「そっか」と佑介は何か考え込む。なんだか気まずくて辺りを見渡した。
「あ」
そういえば、と昨日母から言われた言葉を思い出した。
「佑介、卓球で全国行くって本当?」
「え?うん、そうだよ。そっちも母さんから聞いた?うちの母さん、久しぶりに会ったってはしゃいでたもんなー」
「うん。お母さんから聞いた。・・すごいね」
素直に言えた気がする。自分の気持ちをきちんと自覚すると、こんなに素直に言葉を出せるんだ。
「まぁ、強豪校に通ってるし!それなりに練習してるから」
佑介は二カッと笑った。昔から変わらない笑い方。
・・大層モテているんだろう。ルカの恋愛話を最近聞いているせいか、恋愛思考になっている気がする。
「せっかくだから、一緒に帰ろうぜ」
「そうだね」
久しぶりに、本当に久しぶりに、佑介と肩を並べて帰る。自然と会話が続いていく。それぞれの高校の話、世間話。誰かと帰る道が楽しいことを思い出した。
佑介に彼女はいないらしい。告白は何度かされたらしいが、部活に集中したいらしい。なら、私と帰らず早く家に帰り練習しろ、と小突くと「たまにはいいんだよ、こういう日があっても」と言い、また二カッと笑った。いいな。こういう会話幼馴染っぽい。
「じゃ、また」
「うん、亜梨花と帰れてよかった」
「私も。溝がなくなってよかった。って私が溝作っちゃったんだけど・・」
「そんなのもういいって!・・あっ、LIN〇教えて!知らないだろ?お互いの」
「あっ、うん」
お互いの携帯を出し、追加をした。「じゃあね」と言い、佑介の後ろ姿が遠ざかっていく。見えなくなるまで見つめていた。
空は完全にオレンジになり、暖かく私を包んだ。
今回少し、話が動きました。でもまだ恋愛色は強くないですね。恐らく次回から強くなります。恐らく。
最後まで、どうぞお付き合いください。




