第一章03 ダレカタスケテクレ
「大河真希人!」
帰りのホームルームが終わると、フジサキハルマとかいうイケメンが俺の名前を叫びながら教室の扉を開けた。イケメンが来るもんだから一部の女子が騒ぎ立てている。
俺は奴と目を合わせないよう防災訓練でもやるかのよう一目散に机の下に隠れた。
「マッキー呼んでるよ」
隣の席にいる麗美が言う。こっち見んな。バレるだろ。
「っさい、俺はもうここにはいない」
「いるじゃん」
「そういうことにしてくれ」
空気読め見た目ビッチ。隠れてんだろ。
「マッキーならもう帰ったぞ」
この声は遼平か。ナイスだ。後でアメちゃんあげる。
「早いな……わかった! ありがとう!」
どうやらあいつは行ったようだ。助かった。
あれから休み時間のたびに勧誘に来るから本当にうざかった。その度に断ってるからいい加減諦めて欲しい。
「マッキーあいつ何なの?」
麗美が訪ねてきた。
「俺のストーカーだ」
「モテるねぇ」
どうせなら女の子にモテたいけど、あいつみたいにストーカーになるようなのは勘弁だな。
「じゃあ今日はあいつから逃げながら帰るからまたな」
「うん、まったねー」
麗美は手を小刻みに振りながら見送ってくれた。小走りしながら後ろのドアへ向かう。
「遼平、さっきはありがとな」
「おうっ!」
お礼としてポケットから飴玉を出して小走りしながら投げ渡した。
廊下への扉を開けて周りを確認し、隠れながら下駄箱へと向かった。気分はジェームズボンド。まるで侵入してるスパイのように見られそうだが正真正銘ここの生徒だ。証拠もある。だから怪しい目で俺を見ないでくれ。
靴を履き替えて外に出ると、メガネくんが野球部勧誘している声が聞こえた。
あのイケメンの話だと今は七人しかいないから試合をするためにも部員が必要だから必死なのだろう。誰か入ってやればいいのにと思うが、もともと野球をやりたい奴は野球部が強い高校に行くだろう。
それに、実力がある奴はスカウトが来るはずだ。
そう考えるとあのイケメンはなんでこんなとこにいるのだろう。あいつなら数々の名門やら強豪やらに行ってもおかしくはない。むしろこんなとこにいる方がおかしい。俺から打ったやつだし、優勝を経験しているやつだし。
ーーまぁいいや。どうでもいいか。関係ないことだ。
メガネくん勧誘頑張れよ。元野球人として応援だけはしてやる。心でな。
「あの! 野球部に入りませんか!」
メガネくんが俺の腕を掴んできた。しまった。近くを通るんじゃなかった。
「いや俺は運動は苦手で……」
「そんないい体つきをしてるのにもったいないですよ! 背も高いですし!」
「いやだから……ーーやべっ……!」
遠くからこっちにあのイケメン向かってくる。左右に顔を向けながら歩いてるからまだ俺を捜してやがるな。隠れねえと。こっち見んなよ。
「話だけ聞いてやるから匿ってくれ!」
「あ……はい」
メガネくんの後ろのある街路樹の後ろに隠れた。大丈夫だよな、見られてないよな。めんどくせえな全く。なんで入学して間もないのに人から逃げなきゃなんねえんだ。
「調子はどうだ?」
「残念ながらまだ誰も入ってくれる人はいません」
「そうか……」
「春馬くんは一人アテがあるって言ってましたけど」
「今日は逃げられたみたいだから明日また声をかけてみる」
おいおい、明日もまた来るのかよ。休もうかな。いや、皆勤賞を狙ってるからそれは避けたい。俺は真面目に慎ましく高校生活を送りたいんだ。
「わかりました。僕もさっき話を聞いてくれるって人がいたので、頑張りますね」
「本当か! よろしく頼む」
「はい! 春馬くんは練習頑張ってください!」
「ありがとう。君も練習したいだろうに、申し訳ないな」
「いいんです! どんな形でも野球部に協力できるのが嬉しいんです!」
「そうか……早く9人以上で練習したいな」
「はい。そうすれば練習試合もできますから」
「じゃあ頼むな」
「はい!」
どうやらあのイケメンは練習に向かったようだ。これで心置きなく堂々と帰れる。
「あの! さっき話を聞いてくれるって言いましたよね!」
ため息をついてるとメガネくんが興奮しながら目の前に現れた。うん、確かに言った。メガネくん顔が近いよ。ちょっと離れて。
「あーあれはだな……」
「言いましたよね!」
ああ、これはもう逃げられないパターンだな。
ダレカタスケテクレ……