第一章01 「俺には関係ない」
中学の最後の大会で俺の肩は壊れた。
試合中に激痛で倒れて、気がついた時に知らされたのは試合の敗北と、もう二度とマウンドでは投げれない事実だった。
それが理由で都内の名門野球部からの誘いも白紙。
思い描いた未来も、野望も、希望も、
全てを失っていた。
不思議なことに己の運命を呪うことなどはせず、素直に状況を受け入れいた。
もう二度とマウンドには立つことはできず、道が閉ざされたというのに……
それから数ヶ月が経って4月某日、俺は光柳学院の一年生になった。
この学校はどこかの金持ちが作った新設高校で俺はその2期生。広大な敷地の中に広いグランドがある。
そのグラウンドはこの教室の窓側の席、ちょうど今俺がいる席から一望できる。
俺はぼーっとそこを眺めていると頭頂部から全身に衝撃が走った。
「コラッ! 大河真希人くん! ぼけっとしないで授業をちゃんと聞きなさい」
物理教師の綾小路美玲先生が仁王立ちしていた。どうやら手に持っている教科書で殴られたようだ。しかも角で。一瞥するとその若くて綺麗な顔を歪ませている。
「先生、そんな怒ったら美人が台無しっすよ」
「お、大人をからかうんじゃありません! ちゃんと集中するように!」
美玲先生は顔を少し紅潮させながら教壇にへと戻っていった。女子大出身だから言われ慣れていないのだろうか。
「マッキー怒られてやんのー」
「っせーな」
隣の席にいる御堂麗美がからかってきた。こいつは金髪で派手な見た目のくせに成績優秀だから腹が立つ。その上、運動神経も抜群だから教員からのウケもいい。家が近所で小さい頃から知っているが高校まで同じになるとは思っていなかった。
物理の授業が終わりホームルームを終えて帰り支度をする。宿題のプリントを忘れないように鞄に入れたことを確認して立ち上がると背中を叩かれた。
「よっしゃ! 帰ろうぜマッキー!」
叩いたのはこの妙にテンションが高い男、土塚遼平だ。こいつとは小学校からの腐れ縁みたいなものだ。
「アタシも帰るー」
麗美も加わって三人で下校することになった。高校に入学してからなんだかんだでこの三人でいることが多い。
靴を履き替えて三人で正門へと向かう。二人が授業の話とか、クラスメイトの話をしているのをなんとなく聞きながら歩いていると、必死に呼びかけている男の姿が目に入った。
「野球部に入部しませんか! すごい人たちが集まってるんです! 一緒に甲子園を目指しましょう!」
メガネをかけたヒョロそうな男が箱の上に立って必死に呼びかけていた。手には自作であろう「野球部募集」と書かれたプラカードを持ち、大声を出している。
「この学校、野球部あるんだな……」
遼平がメガネの男を一瞥して呟いた。
「みたいだな」
俺にはもう関係ない。投げれない投手など必要ないからな。
「マッキーとリョウちん、今からカラオケにでも行かない?」
「おっ、いいねえ。行こうぜマッキー」
「そうだな、行くか」
そう、関係ない。
ーー俺はもう野球はやめたんだ……