堕天使と神父様
私は翼が欲しかった。
願いが叶ったはずなのになんで悲しいんだろう。
魂がないから?
それとも、人間には戻れないから?
鏡を見てると私が自分じゃない見たい。
鏡の中にもう一人の私が居るみたいで。
なんでだろう。
懐かしいの。
「神父様~!」
『おや、来たのですね。願いは叶いましたか?』
叶う訳ないじゃん。
私の背中には白い翼が欲しいのだから。
「叶わないよ…あはは」
それだけを言い、天使の像へと向かう。
子供の時から毎日来ている教会。
大草原が広がり綺麗な場所にある教会だから。
天使の像は何も語らない。
「翼が欲しい…なんてふざけているかな」
その時、突風が巻き起こる。
目を閉じて風が止むのを待つ。
「っ…何処っ!?」
目を開けると知らない場所に横たわっている。
バラ園かな?
『私はミッシェル…天使よ。貴方に翼を捧げよう。その代り、お前の大切な物を貰おう』
「えっ!?わ、私…」
気が動転してしまう。
目の前には白いドレスを着た天使が居る。
夢でも見ているのかな。
それに赤いバラと白いバラが交差していて神秘的。
『お前の魂を貰おう。天使の翼と引き換えに』
「翼が貰えるの?」
『そうよ…』
その瞬間、背中に熱い激痛が走る。
「ああああああああああああああっ!」
痛くて意識がもうろうとする。
背中に何かが刺さっているような感覚。
『天使になりなさい。魂は人間界に行くの、お前は二人で一人なの』
痛みが無くなると身体が楽。
その日、私は天使になった。
ミッシェルは言う。
『決して人間界の貴方に会わない事。会ったら全てが崩壊する』
と毎日聞かされる。
私は不思議に思う。
鏡の向こうは私が居るんだと。
鏡のを覗くと不思議な気持ちになる。
まるで、私が別人みたいに。
ただの見間違えだと思うけど。
私は鏡に手を伸ばした。
鏡に手を伸ばしてしまった私たち。
「なんで…悲しいの」
「なんで…懐かしいの」
その瞬間、鏡に亀裂が入る。
「えっ」
「えっ」
すると空間の間に私たちは挟まれた。
私の翼が空間を飛び回る。
ミッシェルの言葉。
二人で一人。
出会ってしまった事により魂が、天使の私の中に入ろうとする。
「貴方は!」
「鏡の中の私が居るの!?」
私たちは手を繋いで奈落の底へ落ちて行く。
「私の魂…天使の翼が」
翼が一枚ずつ消えて行ってしまう。
そうか。私は人間の魂に触れてしまったから、元の身体に戻ってしまうのか。
『あれ程言ったのに…人間の魂…自分の魂に触れちゃったからこうなるのに。リオン』
初めて呼んだ私の名前。
『もう、翼なんて与えられない…。最後の一枚の翼を取って起きなさい?』
『リオンさん起きてください。風邪引きますよ』
「…ん」
『おや…?この翼は』
なんか声が聞こえる。
神父様?
でも、身体が動かない。
硬直しているようだ。
『起きないですね』
私の体が宙に浮く。
目が明かない。
私は死んだのかな。
「ううっ…痛い…」
目を覚ます。
ふかふかのベットの上に居た。
妙に思い出せない。
記憶が混乱している。
『起きましたか…。まさかと思いましたがリオンさんの背中の二つの切り傷』
「…!嫌っ…バレたくない…」
『天使になりたいと言う願いは元の姿に戻りたかった事。もう一つは人間として暮らしたかった。正解ですね?』
そうか…私が翼が欲しかった理由は天使に戻りかった。
もう一つは人間として暮らしたくて堕天使になってしまった。
二つの感情が交差して夢を見ていたんだ。
やっぱり人間の姿なのは…神父様が好きだから。
「正解です…そ、それに私はっ!」
『知っています。リオンさん』
耳元で囁かれた『好き』の二文字。
「!?私は堕天使です。神に反逆した私は神父様にはふさわしくありません」
『私は平気です。神とは時には人を苦しめる。それと同じです』
「神父様っ…」
抱きしめられて神父様の胸の中に顔を入れる。
涙でまともに顔も見れなかった。
なんで。
『スッキリしましたか?』
「はい…神父様っ!?」
背中を触る手が暖かくて驚く。
傷を撫でるようにして。
悪魔と契約をして失った翼。
ミッシェルはきっと私のお姉さん。
覚えてはないけど。
『傷は癒えなくても愛する事には変わりはありません』
ますます好きになっちゃうじゃん。
「好きです神父様」
『天使に会えて光栄です。そして、好きです』
これは禁忌を犯してしまった始まりでもあるが、愛する事には間違いはない。
いつか分かるでしょう。
天使や悪魔、動物が人間を愛する理由が。
「愛しています」
『私もです』
二人で密かに結婚式を迎えた。