6-7 レベル5の終わらないバッドエンド
一回目の戦い。暗闇に燃える竜の圧勝だ。
まるで、歯が立たない。舘林清二が構えた拳銃から放たれた弾丸は、ひらりと避けられ、舘林の頭はあっさりと食いちぎられた。
無謀にも突撃した藤堂大悟は胴体を踏みつけられて絶命。残された高杉陽太も敵の攻撃をかわすことに成功したが、攻撃は失敗に終わる。あっさりと丸呑みにされ、無数の牙に咀嚼された。
二回目。藤堂はまた突撃し、一度目と同じくトマトのように胴体を踏みにじられた。
舘林は僅かに進歩した。だが、結果は変わらない。しゃがみこんで発砲。距離を保っていたが、炎に丸焼けにされた。
陽太も善戦空しく、尻尾に叩きつけられ、意識を失った。
一〇回目までは、結果も経過も変わらない。藤堂は苛立ち、挙句の果て、一五回目には一人で挑み、勝手に死んだ。
一八回目、舘林が弱音を吐き始めた。一人で九八回の戦いをしていたのだ。すでに彼の精神は病んでいた。
一七回目まで戦場に赴いたのだ。それだけも称賛する価値はあっただろう。
腰抜け、と藤堂は評価したが、貯湯猛進しか出来ない筋肉バカに比べれば、ずっと賢い。
一九回目、二人だけの戦い。藤堂は作戦を提案したが、それは陽太を盾にするという、あまりにも自分勝手な作戦だ。
藤堂は暗闇に燃える竜と対峙するとあっさりと陽太を生贄に捧げた。
結果は二人そろって丸コゲだ。
二四回目、二手に分かれて追い詰める。両サイドから追い詰めることに成功するも陽太の攻撃はダメージを与えることが出来ない。
暗闇に燃える竜は藤堂に的を絞り、順に殺した。
二八回目、時間にして一〇日間の休息を得た舘林が戦線に復帰。遠距離から舘林の威嚇射撃。近距離で陽太が囮となり、隙を突いて藤堂が攻撃する。
せっかちな藤堂がタイミングを読み間違え、食い殺される。攻撃手段を失った二人は追い詰められて、仲良く丸コゲ。
三三回目、ついに藤堂が戦うことを放棄した。パチンコ屋に逃げ込み、財布が空になるまで入り浸っていた。
それに倣うように舘林も休暇とばかりに釣りに出かけた。陽太は一人で挑み、独りで死んだ。
三七回目、陽太が狙うのは二か所だ。六つの赤い目玉のどれか、と、口の中の赤子だ。
赤子が紛れもない弱点であるのは知っている。この手で殺したのだ。だが、それは死ぬ覚悟で挑んだ結果だ。
仲間は昨日訪れたはずの今日を抜けたが、陽太はその際の怪我で他界。
今度昨日訪れたはずの今日の中で死ねば、次は一人で戦うことになる。
出来れば同じ手は使いたくない。必然的に陽太は目を狙うことになる。だが、打点が高い。背伸びしても、腕を伸ばしても剣先は届かない。
体をよじ登ることも考えたが、六本の足と六本の触手がある。ましてや翼もあるのだ。そう簡単なことではない。いや、翼は同時に弱点だ。
硬質的な皮膚とは異なり、薄っぺらい肉の紙切れだ。陽太は狙いを翼へと切り替える。
四一回目、陽太はただ一人、剣を握った。我武者羅に戦いを挑み、その行動パターンを見切った。
それゆえの一撃。船に掲げられる帆のように、はためいた翼を切り裂くことに成功した。
血は出なかった。ダメージもないだろう。だが、紛れもなく敵は畏怖した。
初めて獲物から狩人へと立ち回った瞬間だった。だが、それは本当に瞬間と呼ぶべき短い時間だった。暗闇に燃える竜は怒りを表すように何度も陽太の体を踏みにじった。何度も叩きつけられる足に陽太の頭蓋骨は砕けた。
四二回目、藤堂と舘林が再び参戦。藤堂の一撃が暗闇に燃える竜の尻尾をへし折った。ぐにゃりとへしゃげた尻尾に野球ボールほどの小さな亀裂が出来た。
調子に乗った藤堂は一回目と同様に胴体を踏みつぶされる。中距離からヒットアンドウェイで暗闇に燃える竜を翻弄しようとした舘林だが、転倒した末に暗闇に燃える竜に身を捧げるように絶命した。
またしても生き残った陽太だが、先走り過ぎた。尻尾の亀裂目がけて襲い掛かったが、足に振り払われ、背骨を強打。痛みに悶えている間に頭から胴体を食いちぎられた。
四九回目、ようやっと陽太の剣が届く。小さな亀裂を引き裂くように黒い刀身が、どす黒い肌を貫いた。
真っ赤な血が陽太の体を赤く染める。目の前で、岩がこそげ落ちるように皮膚がバリバリと足元へと落ちる。
全体重を乗せて、剣を奥へ奥へと突き刺す。暗闇に燃える竜は悲鳴を上げる。陽太の体を振り払おうと体を揺らすが、折れた尻尾では陽太を振り払うことが出来ない。
しびれを切らした暗闇に燃える竜が首を方向転換して陽太を睨み付ける。
口を開こうとした暗闇に燃える竜の横っ面にビンタでも食らわせるように藤堂の剣が叩きつけられる。
寄せ付けまいと足を振り回すが、顔面でパチパチと弾ける舘林の弾丸に遮られ、狙いが定まらない。
六本脚の内の一つに藤堂の剣が叩きつけられる。それはひょいと避けられたが、幸運にも、その剣先は地面についていた足の甲に叩きつけられる。
大きな鋭い爪がはじけ飛ぶ。好機とばかりに藤堂は再度剣を振るうが、一度目の攻撃を避けられた足が藤堂の体を襲う。
我武者羅に振り回された一蹴では藤堂の命を絶つことは出来なかった。
吹き飛ばされた藤堂は呻きながらも剣を杖のように突いて立ち上がる。
そこに向けられる暗闇に燃える竜の大きな口。
勝利を確信した赤子が笑っている。藤堂は怒りに任させて咆哮したが、その咆哮は炎の中に消えた。
残された舘林はあぁ、とため息を吐き、その場に膝をついた。舘林の目の前で陽太は背中からかみつかれ、尻尾から引きはがされる。
宙を舞った陽太の体目がけて、暗闇に燃える竜は頭突きした。
めりめりと骨の折れる音が全身に響き渡り、陽太は絶命した。それを見て諦めた舘林は自らの額に拳銃を当てたが、その引き金を引くよりも先に、赤子から放たれた炎の弾に全身を焼かれた。
五〇回目、記念すべき折り返し地点である。それにも関わらず、惨敗した。
藤堂はいつも通りの速攻で即死。舘林も気合が入っていないのか、あっさりと焼死した。
高杉も襲い掛かるが、尻尾の傷口に警戒していた暗闇に燃える竜はあっさりと亡き者にされた。
五四回目、再び彼らは休暇になる。陽太は死んだ。
五五回目、頭を食いちぎられ、自分の体が燃やされる様を見た。
五六回、左右の腕を六本の触手に引き裂かれた。芋虫のように逃げ惑う陽太の背中に暗闇に燃える竜はゆっくりと足を乗せ、いたぶるように踏みつぶした。
五七回目、炎に体を焼かれた。全身が炭のように真っ黒になった。焼けただれた皮膚にまみれても、陽太の心臓は生きることを止めなかった。
深夜零時を迎えるまで、陽太はボロボロと朽ちていく体を眺め続けた。
五八回目、腹を食い破られる。体の中に突き刺さる牙の感触に嘔吐した。
鮮血と吐瀉物に濡れた六つの瞳がニヤリと笑っていた。




