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異世界が来い!レベル∞のリトライ英雄譚  作者: RUIDO
レベル.5 ヒーロー
63/79

6-1 レベル5の事情聴取 前編

「逃げたのは何人だ」

 夢ケ丘市警察署。石動玄太いするぎげんたは頭を抱えている。

 山道に続く森の入り口付近。今となっては何の工事をしていたのかもわからない放置された建設現場。

 通報があったのは一時間前。数人の警官と共に石動はそれらの光景を目にした。

 無数の土色の獣だ。歪に盛り上がった土の壁を乗り越え、足元を睨み付ける化け物たち。

 そこには数人の民間人がいた。だが、彼らは怯えた様子もなく、果敢にも立ち向かった。

 ある者は巨大な剣を、ある者は手のひらから炎や雷を放ち、ある者はボールを何度も叩きつけ、眼前の敵を屠った。

 まるで、ファンタジーだ。フィクションのような戦いが繰り広げられた。

 石動と共に同行した警察官も口を閉じるのを忘れて、眼前の戦いに目を奪われた。

 ある者は倒れ、ある者は傷ついた者を抱きかかえ、その光景を見つめていた。

「逃げたのは四名です。一人はケムリであることは確認済みです」

 椅子にふんぞり返った石動に高杉大輔たかすぎだいすけは報告した。

「他の三人は?」

 大輔は首を横に振った。それを見て、大輔は気の抜けるような息を吐き出して項垂れた。

「それで、その逮捕された人物の中に、」

「お前さんのこっ子が大事なのはわかっとる。でも、うちの署だけじゃ手いっぱいなんだよ。天辺昇る前には帰れるようにしてやるから、仕事をしろぉ!」

 大輔は二児の父である。今回逮捕された人間の中に息子の姿もあった。そして、その息子は右腕を失い、病院で眠っている。

「あの、いったい何が起きているのでしょうか」

 大輔は尋ねる。その顔は蒼白だ。挙動不審でいても立ってもいられないのだろう。

 子供のいない石動には、彼の心境を理解することは出来なかった。

「わからん。行方不明のヤクザの組、次は未知の化け物。最後は武装集団。老人にはついていけんよ」

 そう言って石動は鼻毛を引き抜く。指の先には白い毛が数本混じっていた。

「どうしてうちの子があんなところで」

「どうしてどうして、ってお前さんは子供かい。市民のどうしての声に応えるのが俺たち警察だ。お前さんが思ってるどうしては、市民も同じ。俺も同じだ。わかったら、とっとと仕事に戻れ」

 石動は面倒くさそうに背を向けて、煙草に火を点けた。大輔は口を開きかけてやめた。小さく返事をして石動に背を向けて歩き出す。

 石動は煙草を咥え、机と向かい合う。目の前には三種類の報告書がある。

 一つはヤクザの失踪事件だ。寂れた田舎街を仕切っていた組の連中が占拠していたビルから一斉に消えた。

 それと関連しているとして、土色の獣の目撃情報に関する資料が並べられている。

 体調は一六〇センチ程度。体重は一五〇キロ前後。鋭い牙と大木のような腕を持つ化け物。

 もう一つの資料には黒い蜥蜴に関する資料だ。全長八メートル、体重一トン前後。大きな翼を持ち、上空に消えた化け物。

 それらが最後に目撃されたのは銃器を持った人々が集合していた古い建設現場。

 石動を含めた数人の警官が土色の化け物を発見した。

 続いて目を通すのは銃刀法違反として逮捕された容疑者たちの事情聴取の記録である。

 一枚目。

 金巻かねまきという男の調書だ。街で金融屋を営んでいる男だ。

 石動とも顔見知りである。

「石動の旦那、あたしゃ脅されていたんですよ。それでみょうちくりんな指輪をつけられた。ありゃ極道のもんに違いないです!あたしの目を見てください!嘘をついてるように見えますか!」

 金巻の証言は藤堂大悟とうどうだいごという中学学校教諭が犯人だという説だ。

 金巻という男は保身のために家族を売り渡すような男だ。薬物所持で逮捕された時には、あっさりと息子に罪をなすりつけた。その時にも似たような台詞を聞いたことがある。

 この男の証言は当てにならない。

 石動は二枚目の調書に目を向ける。

 更田ふけたという老人だ。杖を突いてよぼよぼと歩を進めた。椅子に座るにも婦警の手を借りるという様相。

 この老人があの場に居合わせたのが不思議でならなかった。

「なぁ、じいさん。あんたの杖の仕込み刀について教えてくれ。相当な業物だ。どこで仕入れた」

 ドスを利かせた石動の声にも、は?とか、え?としか答えない。聞こえていない振りをしているのか、本当に聞こえていないのか。

 あるいは質問の意味すら分かっていないのか。埒が明かなかった。

 石動の堪忍袋の緒が切れる直前、更田は取調室を追い出された。だが、彼は最後に不敵に笑った。

「坊主、じじぃの暇つぶしは将棋ゲームじゃ、覚えとけ」

 意味の分からない言葉に石動は困惑した。だが、再び問い詰めても先ほどのやり取りを繰り返すだけだった。

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