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異世界が来い!レベル∞のリトライ英雄譚  作者: RUIDO
レベル.4 グランドクエスト 後編
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5-6 レベル4の会合 後編

「いいでしょ。じゃあ、藤堂先生から」

「なんで俺からなんだ!」

 いきり立つ藤堂に驚き、金巻の全身から汗が飛び出した。金巻は渋々自身のポケットに手を突っ込んだ。

「あたしゃこれですよ、これ!」

 そう言って取り出したのは札束だ。思わず陽太が反応するとたしなめるように月野が陽太の尻をひっぱたいた。

 札束に見えたのは姿だけだ。それは表面に一万円札の描かれたケースだった。中から取り出したのは赤い宝石が施された金色の指輪だ。

「うげ、被った」

 最悪だ、とばかりに月野は呻いた。その声を聞いて、月野の足にしがみついていたワッパがドンマイとばかりにポンと手を置いた。

 赤い宝石は燃えるように輝いた。

「金融屋、炎・・・なるほど、円術師(ブレイズマネー)ってとこか」

 月野がこういう時に頭の回転の速さを発揮する。ニヤリと不敵に笑う横顔を呆れた表情で見ていた。

「お上手ですぜ」

 それを聞いていたケムリが口元だけでニッコリとほほ笑んだ。月野は照れくさそうに頭を掻いた。

「ゎ、わたしは横島です。武器はこれです」

 ピンと背筋を張って気を付けの態勢で裏返った声を上げた横島は前ならえをする要領で大きな三角定規を目の前に突き出した。

 直後、定規は変形した。分身するように四枚の羽根となり、手裏剣のような姿になった。

「変形、定規、・・・不規則な規律(ヴァリアントルーラ)

 再び月野はつぶやいた。チラリと視線をケムリに向ける。ケムリは無言のまま親指を天に向けて突き立てた。

 意外と二人は似ているのかもしれない。

 横島は見せびらかすように手裏剣を振り回している。その隣で金巻が厄介者を見るような目を向けていた。

 すると、ひょいと半歩前に出たのは更田だ。よぼよぼの足取りだが、思ったよりも俊敏だ。

 膝をガクガクさせて更田は左手で杖を押さえ、右手で持ち手を握りしめた。

 静寂。てっきりそのまま眠りに落ちてしまったかと思った。だが、わずかに皺が動き、細い切れ込みから鋭い眼光がチラリと見えた。

 頭上の木々から葉っぱが落ちる。更田は目にも止まらぬ速さで杖を引き抜いた。

「でいやぁー」

 気が付いた時には杖はわずかに刀身を覗かせながら、杖の中に戻っていく。

 目の前で宙を舞う葉っぱがひらりと二つに割れた。

 もしかすると更田が一番すごいのかもしれない。そう思ったのもつかの間、更田はガクンと膝を折って、その場に正座した。

「・・・足が」

 地面に正座した更田は両足を痙攣させていた。おかげで全身がぶるぶると震えている。マナーモードの置物のようだ。

 横島が慌てて更田の脇に手を入れて抱き上げるが、つま先が震えて立ち上がることが出来ない。

「居合、仕込み刀」

 月野が囁く。またか、と陽太は考え込むように額に手を当てた。

斬り捨て御免(サイレントキル)

 ケムリが得意げに月野を見た。月野はそれだ、とばかりにケムリにキラキラとした目を向けた。

「おい、煙で外からは見えないんだよな」

 藤堂は声を張り上げる。ケムリは面倒くさそうに藤堂に目を向けると気怠そうに首を縦に振った。

 どこからどう見ても大きな剣だ。会長が小ばかにしたような目線をカタナに向けると、カタナはわずかに頬に朱を差した。

「これは藤堂家に伝わる鯨包丁だ」

 なぜ体育教師の家に鯨を捌くための包丁があるのかという疑問を誰もが飲み込んだ。

 取り出されたのは身長一九〇を超える藤堂の背丈ほどもある分厚い包丁だ。

 刀身には竜のような絵が描かれている。

「先祖の名前を取って五郎丸という。ゲームが始まってからは刀身が元よりも伸びてな。今は大五郎丸と呼んでいる」

 なんだか藤堂の言葉の端々に月野と同じ匂いを感じた。ジト目で月野を見るが、月野はケムリと目線を交えて、タイミングを合わせたように唇を動かした。

 音色のない声は確かに陽太の耳にも届いた。

大五郎丸(ナマクラ)

 示し合わせたかのような命名に二人は何かが通じ合ったのだろう。まるで、互いをライバルと認めたかのような目線を交わすと、二人は静かに藤堂たちと向き合った。

 バカにされているとも知らない藤堂は得意げに剣の説明をしているが、その場にいる誰もが話を聞いていない。

 未だに更田は横島の腕の中で宙ぶらりんだし、金巻は汗を拭くので忙しい。

 気が付けば視界の隅っこでワッパは蝶々を追いかけ、カタナは立ったままうとうとしている。

 会長もよほど興味がないのか、文庫本を片手に涼しい顔をしていた。

「まぁ、これで作戦も立てやすくなりやしたね。今日は顔合わせってことで、解散しやしょう。あっしもいつまでも力を使ってられんもんでね」

 力強く説明を続けようとする藤堂の言葉を遮って、ケムリは能力を解除する。

 周囲を覆っていた煙は霧散し、藤堂は慌てて剣を袋の中に戻した。

「ばぁさんが!よなべーをしてー!おにぎーり作ってくれたらなー」

 視界が広がると更田は怯えた声で叫び出す。一体どんなおまじないなのだろう。というか、ただの願望だ。

「いいだろう、作戦は俺が考える!お前たちは俺の指示に従え!」

 先手とばかりに藤堂が吠えた。だが、その声に耳を傾けるのは更田だけだ。え?と言って左耳に手を当てている。

「作戦は後程。今日は養生してくだせぇ。決戦の日は近いですぜ」

 ケムリはそう言ってゆっくりと煙を吐き出した。

「またね」

 ワッパが月野のズボンの裾を引っ張る。月野が振り向くとワッパの姿が景色に溶け込むように消えていく。

 陽太もカタナに視線を向ければ、カタナの姿も消えていく。ケムリの姿もとっくに見えなくなっていた。

 それを見て、藤堂は舌打ちを残して踵を返した。その後に横島が続き、取り残された更田を金巻がおんぶして追いかける。

 更田はゆっくりと肩越しに振り返り、皺の隙間からじっと二人を見えなくなるまで見つめ続けていた。

「あまり学校を休まないように」

 耳元で響いた会長の命令に二人は驚いて振り返る。だが、やはりそこに会長の姿はなく、へばりつくようなねっとりとした薄気味悪さだけが、肌にまとわりついていた。

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