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異世界が来い!レベル∞のリトライ英雄譚  作者: RUIDO
レベル.4 グランドクエスト 前編
46/79

4-8 レベル4の疑問

 暗闇を這う蜥蜴(ブラインドリザード) と共に昨日訪れたはずの今日(エンディングループ)

 それが終わってから一週間が過ぎようとしていた。

 長い、と感じた。

 一度の目の土色の巨腕(クレイビースト)との遭遇から二度目のループは早かった。

 三度目も一週間と掛からなかった。だが、当たり前のように日々は過ぎ、すっかり戦いとは無縁の生活を送るようになっていた。

 秘密基地もすっかり綺麗になった。それも星宮灯里ほしみやあかりが指揮官となって、秘密基地の清掃を命じたおかげだろう。

 最初こそ文句を言っていた樹美鈴いつきみすずだったが、快適とは程遠くとも文句の数は減っていた。

「まだ始まんねぇのかな」

 夏休みのことかと思った。月野卓郎つきのたくろうはそんな口ぶりでぼやいた。

 放課後の秘密基地。いつもの四人で時間を潰していた。美鈴と星宮は携帯ゲーム機でソファの上で肩を並べて遊んでいる。

 それをしり目にベランダに佇んでいた。

「ループ」

 と、付け足した月野を見て高杉陽太たかすぎようたはあぁ、と思った。

 普通の人よりも長生きをしている気分だった。同い年のクラスメイトには理解できない時間を過ごしてきた。

 命を懸けた戦いなど、現代社会において、長生きしたところで、そう何度も味わえるものではない。

 数にしてみれば、そう多くはないのかもしれない。戦争などに比べればちっぽけなものだ。

 浪費したのは体力と精神力だけ。他に何かを失ったわけではないのだ。

「なんで私たちって戦ってんだろ」

 携帯ゲームの画面にゲームオーバーの文字が浮かんでいる。呟いたのは星宮だった。

 隣で同じ画面を見ていた美鈴は心配そうに星宮の横顔を見ていた。

「敵がいるからだろ」

 月野はそれがさも当然のように言った。

 星宮は力なく首を横に振った。

「でも、なんで私たちなの?警察の人とか」

 戦いから時間を置くと思考する時間が増えた。その分、疑問が浮かんできた。

 何のために戦うのか。なぜ自分たちなのか。

「美鈴は神を名乗る少女(ゲームマスター)に会ったんだろ?」

 ソファに座る美鈴に問いかけた。美鈴はじっと陽太を見つめた。

「そういうことは話してないよ」

 意図した出会いではなかったのだ。本来頭の中にあった疑問も目の前に現れた現状に対する疑問に押しつぶされた。

「リリス、ね」

 ため息交じりに月野は囁いた。

 神を名乗る少女(ゲームマスター)のリリス。このゲームを始めた張本人。

 それがどういう存在なのかはわからない。

 美鈴が彼女に対して神なのかと問いかけるとそそくさと雑談を終了したという話だ。

 特別な情報を与えるつもりがなかったのか。あるいは、神様、と呼ばれることが癇に障ったのか。

 どちらにしても、陽太は会ったこともない存在だ。神様なんてものは信じちゃいないが、彼女が実在とするならば、その言葉以外に当てはまるものはなかった。

「暇つぶしだろ」

 月野はあまり積極的ではない。言葉の端々が随分と投げやりに聞こえる。

 考えるだけ無駄だ、と月野はベランダから足元を見下ろした。

「暇つぶしでこんなひどいことをするっていうの!」

 気怠そうな月野の態度に星宮は口から苛立ちを吐き出す。

 星宮の言葉にはもっともだ。だが、ゲームや漫画、それこそハリウッド映画なんかでもよくあることだ。

「快楽殺人だ」

 陽太の考えを代弁するように月野は吐き捨てた。

 それこそ人類が知っている神様とは、優しい者と相場が決まっている。

 祈りを捧げる迷える子羊に手を差し伸べることが仕事だ。だが、それが仕事だとしたら、永遠とも等しい時間を働いてきたのだ。

 オーバーワークはストレスの元だ。ましてや残業手当もつかないと来たら、仕事を放棄したくなるのもわかる。

 それこそ仕事をクビにされた腹いせに会社に火を点ける元会社員のような気持ちだろう。

 今まで散々奇跡を与えてきたのだ。腹いせに絶望を与えるなんてことは、神様でもあり得るのかもしれない。

「じゃあ、モンスターだけで十分じゃないの?」

 チッチッチと月野は舌を鳴らした。

「一方的な殺戮じゃゲームにならないだろ」

「じゃあ、警察官とかでも勝てるモンスターにすればよかったんじゃない」

 美鈴が言った。

「それじゃあ、今でも普通に起きてる戦争と変わらないだろ。軍隊が出てきて、あれは他の国の新兵器だ、とかなんとか言いだしたら、神様が出てきた意味がない」

 随分と出しゃばりな神様だ。

「ゲームの神様はみんな出しゃばりなんだよ」

 月野は小ばかにするように笑った。確かに御伽噺でも神様はよく顔を出す。

 存外神様とは目立ちたがり屋なのかもしれない。

「それこそギリシャ神話とかだと神様と戦う人間なんかもいるんだ。もしかしたら、神様は人間と戦いたかったんじゃないか。神話なんかにもご丁寧に神様を殺せる伝説の剣とかあったりするだろ。アレと同じだ」

「でも、月野。それでも、俺たちが選ばれた意味はわからないぞ」

 神様がいかなる理由でゲームを始めたにしても、そこに陽太たちが介入する余地はない。

 それこそ神話の中の戦士たちは屈強な英雄だ。ここにいる四人は元より覗き行為で逮捕された藤堂大悟とうどうだいごとケムリという男は、英雄という姿からは程遠い。

「人殺しが自分の罪を反省して人類のために神様と戦うなら、まだカッコいいけど。覗き魔がヒーローなんてのは、見たくないわね」

 星宮が嘲るように笑った。まったくもって、その通りだ。人殺しは犯罪者だが、覗き魔となるとただの変態だ。そんな変態に救われる世界なんてまっぴらごめんだ。

「神話ではよく人格者が選ばれるが、今回は違うみたいだな」

 英雄足りえる人間が、英雄に選ばれているわけではない。

「共通点はなんだろ」

 美鈴がソファの上で足をブラブラさせていた。早くも話に飽き始めたのか、ゲームを起動して星宮が再開するのを待っている。

「藤堂との共通点」

 うげ、と星宮は呻いた。

「同じ街に住んでる、とか」

 陽太は顎に手を当てて探偵張りに脳みそを震わせていた。

「そんな理由で?」

 思考を遮ったのは星宮の声だ。確かにそんな理由だけであり得るのか。逆に他の街や国では同じことは起きていないのか。

 陽太はスマートフォンを取り出し、インターネットに接続した。

「他の国や街でもモンスターはいるぜ」

 陽太が検索サイトを開くと同時に月野は言った。そういえば、と付け足し、月野は続けた。

「マンハッタンに出たヘビ男がいる」

 右腕が巨大な蛇の大男だという。身長は二メートルほどで、言葉を話すという。

 記憶を持たない蛇男は病院で様々な検査を受けたらしい。構造は人間と一緒で、右腕の蛇も本来の蛇と同じ仕組みをしているという。

 人間とは程遠い湾曲した顔面、銃弾を通さない肉体、悪魔のようなおぞましい姿にマスメディアは始まりの蛇(ベルゼブブ)と名付けていた。

「ニュースとかではやってなかったよね」

 美鈴が問いかける。月野はコクンと首を縦に振った。

 インターネットではすぐ出てくるが、日本のテレビでは海外のニュースなどは出てこなかった。

 それどころが、始まりの蛇(ベルゼブブ)も小さな記事だ。まるで、その存在を信じていないかのように、大々的には取り上げられていない。

「ますますわからないな」

 陽太が頭を抱えた。同じ街に住んでいるという点以外に共通点はない。

 年齢、性別、性格、地域、すべてが当てはまらない。海外にモンスターが出たということは、海外にもループして戦っている人がいるということだ。

 海外の人間との共通点などない。

「聞いてみるしかねぇか」

 パッと顔を上げた陽太を見て、星宮が立ち上がる。

「自殺するつもり!?そんなのダメだよ!」

 どうせループするさ、と言って陽太はポケットから剣を取り出したが、それを制したのは月野だった。

「俺も試した」

「え」

「自殺すれば会えるってもんじゃないらしい。俺が死んだ時はループしただけだった。そのくせカウントは増えた」

 そう言って月野は左手に嵌められたナビゲーターを見せた。確かにカウントは一を刻んでいた。

「いつの間に!?なんで相談しないの!」

 声を荒げた星宮を美鈴がなだめる。

「こうなるからだろ」

 やれやれと月野は言った。

 星宮の性格を考えれば最もだ。とやかく言われるのを月野は好まない。

「モクモクさんに聞いてみるのは?」

 美鈴が名案を閃いたかのように目を輝かせた。だが、三人は同時にため息を吐いた。

「ケムリのこと?」

 と、星宮。

「どこにいるかもわからないのに?」

 と、陽太。

「ワクワクさんみたいに言うな」

 と、月野が突っ込んだ。

 仮にケムリが答えを持っていたとして、あれほど用心深い男が、そう簡単に口を割るだろうか。

 子供だと思ってこちらを格下に見ているという様子はなかった。プレイヤーだとは言っていたが、危険視はされているようだ。

 藤堂とケムリとの共通点。外国での始まりの蛇(ベルゼブブ)神を名乗る少女(ゲームマスター)の存在。

 考えれば考えるほど謎が深まる一方だ。

「わっかんねぇ」

 陽太は思考することを止めた。

 項垂れてベランダから足元を見下ろす。遠くに一瞬だけ灰色のパーカーを着た男が見えた気がしたが、すぐに見失ってしまった。

「そのうち会いに来るだろ」

 あっけらかんとして言う月野を陽太は少しだけ羨ましそうに見ていた。

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