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異世界が来い!レベル∞のリトライ英雄譚  作者: RUIDO
レベル.3 コンタクト
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3-4 レベル3のケムリ

 石動玄太いするぎげんたは頭を抱えた。

 港町で巨大な黒い蜥蜴とかげが目撃されたとの情報を得た。人が襲われ死傷者が出た。

 応援が要請され、数多くの警察官が港町へと向かった。

 舘林清二たてばやしせいじという若い刑事もそそくさと現場へと急行した。

 石動だけは重い腰を上げなかった。腰痛がひどいという理由もあるが、何よりも彼の直感が警鐘を鳴らしていた。

 蜥蜴はここへ来る。

 最初に目撃されたという土色の獣は夢ケ丘市で目撃された。同様に翼を持った土色の獣も最終的には夢ケ丘市で消息を絶った。

 この街で何かが起きている。

 未確認生物は自らの意思で、この街へと訪れたのか。あるいは、何者かが移送しているのか。

 未確認生物とは何か。

 謎だらけだ。

 道がわからなければ警官に聞け。警官が迷った時は犯罪者に聞くのが一番の近道である。

「ダンナ、あんたが俺のところに来るのは何年振りでさ」

 小さな夢ケ丘市にも娯楽というものは存在する。今でこそ寂れてしまったが、かつては夜の蝶と謳われた少女たちが街中を闊歩していた。

 かつてはネオンにまみれていた、今は誰も近寄ろうとはしない小汚いビルの一室。

 昔はどこぞの組のヤクザが入り浸っていたのであろう、その部屋には破れた革のソファが放置されている。

 男はサングラスにマスクをして口を隠している。如何にも不審者な男は、それに腰を掛けて煙草をふかしていた。

「二年前に話を聞いた時には、お前さん医者に煙草止められてたろ」

 石動は薄汚れたカーテン越しに外の景色を眺め、ゆっくりと煙草に火を点けた。

「副流煙って言葉ご存じで?ダンナが近くにいりゃ自分で吸おうが、副流煙を吸おうが一緒でさ」

 ちげぇねぇ、と石動は苦笑した。

 彼はいわゆる情報屋だ。金になるなら誰にでも情報を売る。

 それでいて彼自身の情報はほとんどない。

 彼は通称、“ケムリ”と呼ばれている。

 ケムリはごほごほとむせながら口から煙を吐き出した。

「で、ダンナァ。最近、野良犬に手を焼いてるって話はほんとですかい」

 ふん、と石動は鼻から煙を吐き出す。鼻の穴がムズムズした。

「まぁな。ありゃなんだ」

 ケムリはゆっくりと頭を振った。

「ダンナ、神は信じるかい」

 ケムリの言葉に石動は鼻で笑った。

「でしょうな。あっしも信じちゃいねぇが、最近、よく観光客を見るんでさ」

 ケムリの話によると夢ケ丘市の近隣には観光客が増えているという。

「この時期にか」

 温暖な気候ではない。かといって、極寒と呼ぶには程遠い。

 過ごしやすい街ではあるが、それ以上もそれ以下も存在はしない。

 せいぜい近隣の観光地へと足を運ぶ者たちが休息に訪れるくらいだ。

 ケムリはただじっくりと頷いた。

「だが、どいつもこいつも変なんでさ」

 日本人はもちろん、海外からも押し寄せている、とケムリは語った。

 興味本位でケムリは観光客に問いかけた。

 なんのために日本へ来たのか、と。

 彼らは口を開かなかった。だが、秘密が深まれば深まるほどケムリの興味は深まっていった。

 やがて、彼は一人のクリスチャンと出会った。

「あなたは神を信じますか」

 彼はケムリの問いかけも無視して問いかけを重ねた。

「あっしは神も仏にも、しまいにゃ閻魔様にも見放されたもんでさ」

 だから、神の言葉を聞かせてくれ、と迷える子羊を演じた。彼は快く言葉を紡いでくれた。

 悪魔は世界中に子供たちを放った。そして、神は子供たちに悪魔と戦う力を与えた。

 子供たちは父の教えに従い、人としての時間をはずれ、悪魔たちと戦うことになった。

 自分は神に選ばれし者である、とクリスチャンは語った。

「神様ねぇ」

 ぼんやりと石動は煙草の灰を足元に叩きつけた。

「他にも口の軽い奴はいたんですが、同じようなことを言うだけでさ」

 ケムリはため息を吐き出した。いつしか口元に引っ付いて煙草は灰となって足元に落ちている。

「どう思う」

 石動は尋ねながら煙を吸い込んだ。

「推理や捜査はあっしの分野じゃありゃせんぜ」

 ですが、と付け足してケムリは再び煙草に火を点けた。

 肺一杯に吸い込んで、ゆっくりと天上に向けて吐き出した。ゆらゆらと煙は揺らめく。

「神や悪魔は隠語とは考えにくいんでさ。キリストだかユダヤだかあっしにゃわかりゃせんですがね。組織にしては国境を跨ぎ過ぎでさ。そんなに股の開く組織は聞いたことがありゃせんのですよ。女も組織も一緒でさ。股が緩いと締まりが悪い。締まりが悪いとイケるとこまでイケないもんなんでさ」

 石動はそれを鼻で笑った。それを見てケムリも同様に笑った。

「お前は現実主義者(リアリスト)だと思ってたよ」

 そう言って石動は煙草を足元にたたきつけ、踏みにじるように火を消した。

「あっしもそう思っていましたよ。ですがね、ダンナ」

 石動は背を向けて出口へと歩き出す。その言葉を自分の足音と共に耳に入れた。

「ゲームはもう始まっちまってるんでさ」

 石動は足を止め、肩越しに背後を振り返る。

 そこには紫煙が揺らめくだけで、ケムリの姿はどこにも見当たらなかった。

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