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異世界が来い!レベル∞のリトライ英雄譚  作者: RUIDO
レベル.2 インシデント
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2-3 レベル2の怪物

 神がいるべき場所とは、空の上と相場が決まっている。

 人々は崇め、奉り、地上から彼らの居場所を奪い去った。おかげで、神殿とは名ばかりの観光地や教皇と称した人間が偉そうにふんぞり返っているばかりだ。

 ゆえに世界は自分の居場所を作ることにした。

 本当はど派手に地面から自分の城を作り出そうと考えたのだが、その登場はどう考えても魔王城だ。

 彼女にとって世界という存在は神々しい存在なのだ。ゆえに彼女は魔王城を放棄し、雲の中に城を作った。

 見事な案だ、と思ったが、すでに日本のアニメ映画製作会社に作られていたと知ったのは、割と最近だった。

 まぁ、致し方ない。

 彼女にとって新しいものを作るということは数億年ぶりだ。その間に人類は彼女の代理とばかりに新しいものを作り、空想し、それを人々の目にさらしたのだ。

 致し方ない。

 やれやれとため息を吐き出して、世界は玉座の上で胡坐を掻いた。

 短パンにパーカーを着た女王は白の中を眺める。

 白を基調とした純白の城。壁に散りばめられた大理石が太陽の光を反射させ、天井はダイヤモンドのような光沢を放っている。

 金を使わなかっただけマシという程度だ。少々派手すぎる。だが、世界はその出来に満足していた。

 問題はそこにいるのが世界しかいないということだ。

 遥か昔に男女の人間を作ったが、あいにく言うことを聞かなかった。

 口を利くはずもない蛇のせいにして逃げ出し、そこから少しずつ文明を発達させた。

 いくら何でも出来ると言っても、複数の知能にはかなわないことを教えられた。

 世界が自分で作ることよりも、人類に世界を作り上げることをゆだねた。

 その中で起きる争いも悲劇も仕方のないことだと思っていた。

 考え方が間違っていたと気付いたのは一九四五年の第二次世界大戦の終わりだ。

 何度も戦いを繰り返しながら、急速に成長を繰り返していた人類が、突然、足を止めたのだ。

 より大きなものを作ろうと躍起になっていたはずの人類は、気が付けば競うように小さなものばかりを作り出した。

 環境汚染にも目を向けていると言いながら、原子炉が爆発したりと管理はひどくずさんなものばかり。

 それらの事実を空から見下ろしていた世界が知るのは、ニュースキャスターの文章を読み上げる声からだった。

 すっかり飽きてしまった。昔は小さなことで一喜一憂していた人々の声が懐かしい。

 その時は一つの進化を皆で喜び、一つの失敗を皆で嘆いていた。だが、まるで無感情の人形のように成り下がった。

 こそこそと人々の目を欺き、時には声を偽る。

 どれほど脳みそが発達し、彼らが名付けた神と同等の力を得ようと、結局はかつての浅はかで無知な人類へと還るのだ。

 ヘビなどいない。それはお前たちの意思がもたらした結末。だが、今回はそんな言葉を吐きかけてやるつもりはない。

 ヘビになってやろう。

 お前たちの築いた世界地図を白紙に変え、いつかのバベルの塔のように崩れ落ちる様を見てやろう。

 だが、愛する我が子たちの子供たちだ。

 ただリセットボタンを押すように終わらせるのでは可哀想だ。それ故に、世界は一つのゲームを始める。

「さて、次の相手はどれがいいかな」

 彼女は足元の世界に目を向ける。人類が書き示した世界地図。その端っこで縮こまる小さな島国。

 目を凝らし、じっと標的を定める。

 刑務所の中で、これから自分が死ぬことを認めることが出来ない女は、その視線に怯えていた。

 そして、今再び見つめられていることに気が付き、狂ったように悲鳴を上げた。

 看守が彼女の異変に気付き、医師を呼ぶ。

 その声を聞き付け、他の看守が彼女の体を押さえ付けた。

 女は悲鳴を張り上げ、何度も身じろぎした。だが、元々華奢な女だ。鍛えられた看守の腕で押さえることは容易だった。

 いつものように疲れた顔の医師が注射器を持って現れる。女はヒステリックの塊だった。

 それ故にそんなことが起きるのは想定の範囲内だった。

 想定外だったのは、彼女の体が変異したことだった。

 肌色の皮膚が砕けるように床に落ちる。筋肉がずり落ち、中の骨まで見えてきた。

 看守は思わず悲鳴を上げ、彼女の拘束をほどいた。

 右腕はあっという間に白骨化した。

 誰もが声を上げる中、肉を失った骨がバキバキと歌声を上げた。

 その歌声に踊るように骨は形を変え、息を吹き返すように骨を覆う組織が再構築される。

 ピンク色の筋肉、血の通った青い血管。そして、土色の外皮が彼女の腕を覆っていた。

 医師は悲鳴を上げ、逃げ延びようと走り出す。だが、異変があった時点で彼女の独房は文字通り牢獄となった。

 中に閉じ込められた者が逃げ出す術はない。

 ひたすらに懇願したが、医師の声はふいに途絶えた。

 それを見ていた看守は絶句した。

 そこに女の姿はない。そこにいるのは土色の巨腕(クレイビースト)となり果てたもの。

 フットボールのような頭が、赤い瞳が看守を睨み付ける。

 高杉陽太たかすぎようたたちが見たクレイビーストと唯一違うのは、それには翼が生えている。

「レベル2なら、こんなもんかな」

 世界は小さくほくそ笑む。

 罪には罰を、闇には光を、救済には救済を。

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