月の国のかぐや姫
「かぐや姫貴女を一級犯罪者とし、この月の国で一番重い罪、地上への流刑を命じる。何か言いたい事はありますか?」
かぐやは真っ直ぐ前向き
「いいえ、何もありません。」
首を振り答えた。その言葉を聞いていた母上が泣き崩れ、父が悲しげに、わたくしを見つめていた。
まだ日も上っていない、薄暗い廊下で手に手盥を持ち、早歩きで目的の部屋の前で手盥を置き、主を起こそうと豪華な刺繍が施された御簾を開け、まだ寝ている主の下へ行き
「帝、朝でございます。起きてください」
声を掛けると、ユックリと目を開け
「ああ、お早うかぐや」
ニッコリと笑い起き上がろうとするのを、手伝い
「お加減はどうですか?起きれますか?」
「今日は調子がいいよ」
その言葉に、立ちあがって嬉しそうに手を合わせ、さっき持って来た手盥を帝の横に置き
「それでは、早速朝ご飯の用意してきますね、少しお待ちください」
そのまま頭を下げ出ていった。この月の国の帝で御座す帝は、とても体が弱かった。その為今の帝では政が回らない為、弟君の望様が補佐と言う形で成り立っていた。兄弟仲は良く望様は帝のお見舞いに良く来ていて、かぐやも面識があったが面識と言っても声を交わす事は出来ないのだけど……そもそも、ここに来てまだ間もない、初めは凄く戸惑った、かぐやは貴族の姫だが、中流の家系なのに、イキナリ父上から「帝のお世話をせよ」と言われビックリした、父と母はとても喜び「名誉な事だと」でもわたくしは、嬉しくも何も無かった、何故わたくしが人のお世話なぞしなければならない!だが帝に会いその考えが間違いだと、この方こそ国の頂点に立つお方だと痛感した。帝の為なら心を込めてお仕えしようと、それがいつしか恋心に変わっていた、自覚をし直ぐ、それは隠さなければならない感情だと、もし帝に知られてしまえば、優しいお方だ心を痛めてしまう、そんな事だけはダメだ。絶対に知られないよう心に決めている。帝のご飯の準備をしていると
「ご機嫌でございますね!かぐや様?」
イキナリ話掛けられビックリした、身に着けている羽衣がユラユラと話掛けて来た。
「もう、イキナリ声を掛けないで、ビックリしたでしょ!」
「それは、申し訳ありません。かぐや様が嬉しそうだったので」
はぁと息をはき、揺らめいている羽衣に
「もう、知ってるでしょ?さあ、早く朝ご飯を持って行かなくては」
お盆を持ち歩き出した。羽衣が楽しそうに、良いニオイがしますと、かぐやが
「羽衣も食べれたら、良いのに」
「いいえ、私はかぐや様の気で生きている物ですから、かぐや様が美味しいと思う食べ物は感じられますよ」
この国では誰しも必ず羽衣を持っている、と言うか生まれ直ぐ身に着けているらしい、月の国はとても清浄な所で、わたくし達は穢れていては、生きていけない身だと、だから穢れ無いよう羽衣を身に纏っていると教えられているが、ここでは必要性が無い為着けて居ない者もいる。ただ帝だけは地上におりても大丈夫だと。
かぐやが部屋に戻ると帝は手盥で顔を洗ったのか、さっきより目が覚めた様子だ、帝の前に朝ご飯を用意し、お粥を差し出すと
「かぐや、今日の予定はどうなっている?」
「今日でございますか?そうですね…今日は朝議の書類に目を通して頂きたいのと…」
続けようとすると、帝が焦った様に
「それらは、朝で終わるのだろう?」
「ええ、そうです。午後はお体の事もありますし、お休みになられた方が良いのでは?」
帝は頑張り過ぎると熱が出てしまう、その為かぐやがある程度先に書類を確認している、弟君に書類が行く前の物は、帝自身確認をしている、だが見る時間には限りがあり帝自身の負担を考えかぐやが書類の選り分けをしていた、誰にも分からない様に、良い物は上に置き悪い物には注約を入れ。帝が一度、最近の書類はとても見易くて、読みやすいよかぐや、そうなんですか?と、惚けたが帝はご存じのようだった、それ以来暗黙の了解となった。
「今日は調子が良いから大丈夫だよ、午後は何も無いのか?」
いつになく積極的な帝に戸惑っていると、
「午後は散歩がしたい!」
「散歩でございますか?」
「ああ、ダメだろうか?」
ここまで、強くでるのは珍しいと嬉しく思い、微笑みながら、
「ええ、大丈夫でございます帝、では警備の者の用意してきます」
席をはずそうと、立ち上がろうとした時、手を掴まれ
「そうではない、そなたと散歩がしたいのだ、かぐや」
イキナリ言われ面を食らってしまった、手を掴まれたまま悩んでいると
「しかし、わたくし一人では帝をお守り出来ません」
嬉しかったが、帝を危険な目に会わす事なんて出来ない、首を振り断ると、真剣な目で
「大事な話があるのだ、かぐやお願いだ聞いて欲しい」
頭を下げられ慌てて「お止め、ください」と止め。仕方無く
「分かりました。散歩いたしますが、一時間だけですよ?」
「有り難う!午後が楽しみだよ!」
嬉しそうにお粥を食べた。午前の朝議の書類も筒がなく終わり、午後になり帝が、かぐやに手を差しだし
「さあ、行こうかかぐや?」
キレイに手入れされている庭園に二人ゆっくり見て回った。
「今日は本当に気持ちが良い日だね、かぐや?」
「ハイ帝、ところでお体は大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、最近は調子が良いんだよ。これもかぐやのお蔭だよ、いつも私の事を気を使っていてくれているから、本当に有り難う」
いつになく午後の日がまぶしく、帝の顔が見えない。一瞬かぐやは焦りを感じたが本当に一瞬の事で分からなかった。
「どうした?かぐや?」
「え、いいえ、何でもありません。わたくしも帝が元気で在られれば、とても嬉しく思います」
「本当にそう思うかい?」
「ええ、この国で一番尊いお方なのですから」
とたん帝は顔をしかめた。かぐやは何か悪い事を言ってしまったのかと焦りながら土に頭を着き
「申し訳ありません、わたくし何か失礼な事を帝に申してしまったのでしょうか!」
「そうではない、立ってくれ。これは私の不甲斐なさを思っての事だよお前は悪く無い」
「しかし……」
「かぐや、私は本当にこの国の帝でいいのだろうか?」
「何をおしゃっているのですか?」
帝が何を言いたいのか、計りかねていると
「もうずっと考えていた、私は帝に向いていないのでは無いかと」
「何を!おっしゃっられているのですか!貴方様しかおられません!」
その言葉に帝は首を振り
「弟の望が居る。むしろ望が帝になった方が良いのだ、こんな体が弱い私では…民もその方が安心だろう?だから私は考えたのだよ、かぐや…帝の地位を弟に譲ろうと」
何も言えず悲しかった。確かに帝が体を崩れると、とたんに政が止まる、それでも良かった。でも帝が決めた事なら異論は無い、言える訳が無かった。帝が静かに問いかけて来た。
「かぐやは、私が退位したら…どうする?」
「……わたくしは帝が、いえ貴方様に奥方様をめとられるまで、お世話をさせて頂けたらと思っております」
頭を下げて、帝の言葉を待った。すると帝がため息をついた。思わずビクッとしてしまった。
「かぐや…私の大事な人は、もう居るよ?」
もう顔を上げられない、こんな喜ばしい事なのに、悲しくて御祝いの言葉も言えない、グッとこらえて
「そ、そうだったのですね…わたくし用を思い出したので、帝申し訳ございません…」
「……何も言わないのか?」
「わたくしごときが、何を言えましょう、帝がお決めになった事に従います」
下を向いたまま後退り離れようと、すると帝の手が伸びイキナリ抱き締めたれた、咄嗟にもがくと
「すまぬ、行くな。かぐやお前だよ?私の大事な人は」
抱き締められたまま言われた事が分からず帝を見ると帝の顔が真っ赤だ、良く見ようとすると深く抱き締めたれた、じわじわと実感が心臓の音がうるさい、本当なのだろうかと思ったが帝の心臓の音も早い…知らずに涙がこぼれていた。
「どうした!何故泣くのだ?私は嫌か?かぐや泣かないでおくれ、其方の涙は胸が痛い」
途方に暮れたように帝が困っている、思わず笑ってしまった、帝を見上げ
「わたくしも貴方様が一番大事です、貴方様が帝でなくとも、ただお側に居させてください」
また、凄い力で抱き締められ
「良かった!断らたら、どうしようと思っていた」
「あの…帝もう放して頂けたら……」
もう流石に一杯一杯だった。
「ん?何故だ?良いではないか?」
こんな積極的な方だっただろうか…困ったが、どうにか違う方にと
「あの…それで弟君様にはいつ言われるんですか?」
少し考えたように、首をかしげ
「そこまでは考えて無かった取り合えず、かぐやの事しか頭に無かったが、そうだね近々にでも言うよ」
かぐやはオズオズと帝に腕を回して、小さい声で「ハイ」と答えた。今この国で幸せなのは、わたくしだろうと、幸せだった。帝がかぐやの耳元で「名を読んでくれ」
「……朔さま」
嬉しそうに帝が言った。私が帝で無くなったら、その名を呼ぶように。そう言っていたのに…その日は来てしまった。朝から雨が降っていた初めは小雨だったのが時間が立つにつれ雨脚が強くなっていた、少し帝の顔色が良くない、心配げに見ると帝はニッコリと答えた。
「大丈夫だよ、今日はもう少しやりたい」
書類を手に帝が言った。心配げにしていたのが分かったのかも知れない、かぐやは
「もし、何か合ったらお呼びください、わたくしは部屋に戻っております」
帝はホッとしたように
「ああ、そうするよ」
部屋を後にした。部屋から出るなり、羽衣が心配そに
「かぐや様?どうかなさいました?何だか顔色が良くないですが…心配な事でも?」
「そうかしら?…そう言えば最近体がダルいし、気持ちが悪いような…疲れかしら?」
「大丈夫なのですか?一度お医者様に見ていただいた方が」
「ふふ、大丈夫よ?…それにしても嫌な雨」
雨が酷くなって、とうとうカミナリまで鳴っている
急に不安になり一度帝の部屋に行こうと部屋から出ると人にぶつかった、慌てて
「申し訳ありません」
ぶつかった人に謝ると、そこに居たのは弟君様だった。
「おいでだったとは、露知らず」
弟君様はかぐやを感情無い顔で見詰め
「いい、それより兄上様に会いに来た」
「帝はお部屋に居られます」
何も言わず先に歩いて行ってしまった。慌てて後ろに続き、ふと違和感を感じたが、それが何だったのか…そして帝の部屋へ弟君様が
「兄上様、お話がございます、入りますよ」
大股で御簾を開け中に、その直後大きな声で
「誰か!誰かおるか!帝の一大事!」
!その声にかぐやは慌てて帝の側に駆けよろうとすると何故か弟君に突き飛ばされた、その時帝が見えた帝は机に伏して動かない、さっきまで笑っていた顔は、白く血の気が無く、口から赤い血が流れている、一体何が!訳が分からず茫然自失としていると弟君が
「お前がやったのか!」
えっと弟君の顔をみて、かすれた声で「違います」ひたすら首を振った、こんな事する訳が無い。弟君は凄い剣幕で
「この女を捕らえよ!」
すると、警備の男達が回りを取り囲み「ご同行を」と問答無用に連れられ、暗く狭い部屋へ隔離されてしまった、羽衣は心配げに震えた。
「大丈夫ですか?かぐや様」
羽衣に優しく触れ。
「わたくしは大丈夫よ…」
「それより、何故帝があんなお姿に…何があったのでしょうか?かぐや様」
「……それは、多分弟君様が知っているのでしょう?…そこにいらっしゃるのでしょう弟君様?」
戸が開き男が一人出て来た。弟君だった。
「お前は本当に頭がキレる、流石兄上が気に入っただけはある、それでいつ気付いた?私が犯人だと?」
「さっきぶつかった時に、オカシイと貴方様が今しがた来たと言うのに全然雨に濡れていませんでした、とゆう事は小雨の時におみえになっていたのですね?帝がわたくしを部屋へ戻らした時には、あの部屋にいたのでしょう」
「ハハハっ!本当に何でもお見通しだな!」
かぐやは弟君を睨み凛とした声で
「それで何故帝を殺したのですか!」
「何故だと!兄上がいる限り私は帝になれない!体も弱く貧困な兄上!邪魔に思っても仕方ないだろ!
」
「そんな事であのお方を…」
「そんな事とは何だ!前の兄上だったら…こんな事考えもしなかったのに…お前だ!かぐやお前が兄上に気に入れて段々兄上が元気になられ私は不安だった!兄上がこのまま元気になられ私の存在が無くなったら!私が今までこの国の為にしてきた事が兄上に全部取られるなんて!許せる訳が無い!」
「そんな…まだ聞いていないのですか?帝は退位をし帝の位を弟君様に譲られる事を?」
「!何だ…それは?」
信じられ無いのか疑わしげに睨み
「そんなの嘘に決まっている!私を騙そうとしても無駄だ!かぐやお前には帝殺しの罪を被ってもらう」
最初からそういう手筈になっていたのだろう、かぐやは涙を流し、どうしてこんな事になってしまったのだろう…良かれとと思った事が兄弟の仲をオカシクさせてしまった。全てわたくしが悪かったのか?
「お前がいくら、何を言っても誰も信じまい!」
笑い嘲るよに弟君はかぐやを見ていた
「朔様は帝に為るべきは望様だとおっしゃっていました」
「………」
弟君様は何も言わず行ってしまった。この世界に一人残されてしまった…ずっと一緒だと言ったのに…もうここに居る意味が分からない、だったら…いっそ今……と思った時、ドクンと音がした。ハッとお腹に手を当てると、居る!お腹の中に帝の子が…守らないと!弟君に知られては殺されてしまう!それだけは
「どうしたら…」
羽衣が悲しげに話掛けて来た。
「申し訳ありません。私…かぐや様のお役に立てなくて…何か手立てが、早くしないと地上への流刑が決まって…」
「地上への流刑?それが罪?」
「ハイ、私達月の民は清浄な所でしか生きられません、穢れた地上なんてもっての他です、そんな所に降ろされたら…たちまち穢れ長くは生きられません、それに一度穢れたら二度と月には戻れません」
「そう、だったら…わたくしはそれに身を任せるわ」
「何を言っているのですか!かぐや様」
「大丈夫よ、わたくしは一人でも羽衣貴女はここに残りなさい、ここなら大丈夫母上にお願いするから」
「何を言ってるのですか!私はかぐや様が生まれた時からお側にいました…貴女が地上に行くと言うのならお供します、決して離れる事はありません」
「いいの?」
羽衣はゆらゆら揺れた。かぐやはそっと触れ
「有り難う、実はわたくしのお腹の中に帝のお子がいるの弟君に知られれば…きっと殺されてしまう…だったら地上に逃れそこで育てたいの」
優しく触れ笑った。
「それなら私も、一緒に御守り致します!」
翌日帝を正式に襲名した弟君が
「これより帝を殺害した罪の罪状を言い渡す!」
その場には父上、母上が居た、そして沢山の人誰が帝の死を悲しんでいた、かぐやは思った。帝貴方は多く民に慕われていましたよ?一筋涙をこぼし弟君の言葉を待った。
「かぐや姫、貴女を一級犯罪とし、この月の国で一番重い罪地上への流刑を命じる、何か言いたい事はあるか?」
「いいえ、ございません」
まっすぐ前を向き、弟君を見た。
「……そうか、では月の記憶を全て消し、その身を地上に降ろすとする」
その言葉に母上が泣き崩れた父上は悲しげに、かぐやを見ていた。かぐやはそっと頭を下げ、今まで有り難うございますと
「さ、こちらへ、今から貴女の記憶を消します」
その言葉に目を閉じると、朔様が笑っていた、あの日の記憶だ、始めて名を呼んだ。涙が溢れた。涙を流すたび気憶が一つ消える、そして自分の名も忘れた時…誰が呼んだ『かぐや』と。それに答える人はもう居なかった。唯一かぐやの名を知っている羽衣は眠らされたまま、次に目が覚める時はかぐやの子と会うその時まで…
読んでくれて有り難うございます。




