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「僕は無力です。その無力さを瞳のせいに……挙句の果てには八重さんのせいにしました。僕は恥ずかしいです」
助けろと願ったくせに、いざ願いがかなうと自分にはその資格がないように思えた。まっすぐ八重さんの顔を見ることができない。
「いいえ、恥ずかしいのは私の方です。タマとシロに助けてもらったのに、私は何一つ恩返しができなかった。この子たちが追いつめられるまでずっと。こんな形でしか恩返しできない私がとても情けないです」
八重さんは眠っている黒猫の前髪を撫でた。
慈しむように黒猫の顔を見る八重さんを見て、僕はまた泣きそうになる。
見放してなんかなかったんだ。ずっと玉井と瞳に何かしてあげたいと思っていたんだ。何もできなかったのは……八重さんが神様なんかじゃなかったからだ。
左手で黒猫の頭に触れながら、八重さんは右手を前に出した。人差し指が示す先には、水面を見つめ、一人佇む西園寺がいた。
「今の彼女に、私たちの姿は見えないでしょう。……行っておあげなさい」
僕は西園寺の傍らに寄りそった。八重さんの言う通り、僕の姿は見えていないみたいだ。僕の気配に気づかず、西園寺は膝をついた。
水晶の床に映像が映し出されていた。古い映画のようなモノクロのそれは、まぎれもなく西園寺のためのものだった。
「おばあさま……?」
「西園寺喜美代をあの娘に会わせることはできませんが、死者である私を通して……死者の記憶を見せてあげることはできます。本来なら私は姿を現すこともかなわぬ身ですが、北野山の神様はこのために私に今一度姿を与えたのです。瀬野様、あなたのもう一つの願いのために」
僕のもう一つの願い……?
僕は西園寺と並び、水鏡を覗きこんだ。