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そこは透明で青白い水晶でできた空間。見渡す限りの青……上も下も、右も左も。
白河神社の本殿にいたはずなのに、ここは一体どこなんだろう。
足元にはくるぶしのあたりまで水がたたえられていた。一歩足を踏みだすと、きれいな円の波紋が現れ、どこまでもどこまでも、その波は広がっていく。
「ようこそいらっしゃいました」
いつからそこにいたんだろう、僕の背後では一人の女性が正座していた。
鶯色の着物に、黒く長い髪が落ちている。前髪はきれいに切りそろえられていて、その表情を幼く見せていた。やや低めの落ち着いた声が妙に僕の心を穏やかにする。
彼女の膝では、仮面を外された黒猫――玉井が眠っていた。その姿を見て、僕もとっさに両手で自分の顔をさぐる。ついさっきまでつけていた仮面は、どこにもなかった。
「案ずることはありません、瀬野様」
「え、僕の名前……」
「存じ上げております。いつもタマとシロがお世話になっております。あ……今のこの子たちの名前は那智と瞳でしたかしら」
その花開くような笑顔に、僕の警戒心は次第にほどけていった。
「あなたは?」
「あら、申し遅れました。八重と申します」
八重……どこかで聞いたことあるような。でもどこで聞いたんだっけ?
首を傾げてうんうん悩んでいる僕を見て、八重さんはくすりと笑った。
「助けてやってくれ、と私におっしゃったではありませんか」
いや、僕は鏡に向かって……。そうだ、確かあの鏡の名前は八重之鏡だ。昔話の娘が持っていた鏡。ってことは、彼女が……?
「私は神様ではありません。一人の村娘にすぎません。ただ、北野山の神様は私たちの声をちゃぁんと聞いてくださったようですね。タマを助けてほしいという願いを。それは私の願いでもあり、シロの願いでもあり……そして何より瀬野様、あなたの願いです」
ぴちゃん、とどこかで水が滴り落ちる音が聞こえた。僕は八重さんから顔をそむけた。




