17
その刹那、膨大な質量の光があたりを満たした。
光にも圧力があるんだ、僕は初めて知った。胸元のあたりを押しのける感覚。
僕が掴んでいた鏡から、青白い光があふれていた。
目を細めて鏡を覗きこむ。水面がさざめくように、鏡の表面は揺らめいていた。そしてその向こうには……。
「黒猫!」
光る鏡に映しだされていたのは、黒猫の背中だった。
まだ捕まってなかったんだ!
だけど、安堵したのもつかの間。なんとか逃げ続けているものの、どうやら黒猫は西園寺邸の応接間で追いつめられているみたいだ。
膝をついて肩を上下させている黒猫は西園寺と高遠さん、そしてたくさんの警備員に囲まれていた。絶体絶命じゃないか!
僕は波打つ鏡面に手を伸ばした。ヌルリとした感触、そして僕の手が鏡を通過する。
僕は黒猫に向かってもう一度叫んだ。
「黒猫!」
僕の声が届いたのか、黒猫は弱々しく後ろを振りかえった。
「お前……」
翳っていた黒猫の目に、光が戻る。僕の姿を認め、信じられないといった様子だ。
僕は黒猫に思いっきり手を伸ばした。
「い、一体どうなっているのです!」
鏡の向こうの西園寺が慌てふためいていた。何事にも動じない、あの高遠さんでさえ呆然と突っ立っている。
僕自身も何がどうなっているのか聞きたいところだけど……わかっていたのは、あの手を掴めば黒猫を助けられるっていうことだけだ。
黒猫は必死で僕の手を掴もうと、力を振り絞る。僕はさらに鏡に手を突っこんだ。
「させませんわ!」
西園寺が黒猫目がけて、駆けよる。
僕が黒猫を捕まえるのが先か、西園寺が黒猫を捕まえるのが先か。
もうちょっとで黒猫の指先が触れる……あと二センチ、一センチ……!
西園寺と黒猫の距離も縮まる。一瞬のことなのに、何分もかかっているように感じた。
「く……届けぇっ!」
「逃がしませんわ!」
僕と西園寺が黒猫に触れたのは同時だった。