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茶色の瞳に、ひどい顔をした僕が映る。
「なあ、お前、瞳のことどう思ってるんだ?」
「こ……こんな時に何を言ってるんだよ!」
「最初はさえない奴だと思ってたけど、お前、いいやつだよな」
黒猫がくくく、と笑った。笑うだけでも傷が痛むんだろう。笑った後、痛みを耐えるかのように短く息を止めた。
「私、わかってたんだ。お前はきっと共犯者になるって。瞳はさ、お前の記憶を消したくなかったんだ。お前に忘れてほしくなかったんだ」
警備員が僕たちを捕まえようとにじり寄ってくる。懐中電灯の灯りがちらついて、集中できない。
「共犯者になることが条件って言ったけど、途中からそんなこと、どうでもよくなっていた。私たちの力を……私の大切な相棒を理解してくれるやつが味方になってくれるなら、それでよかった」
黒猫は僕の手をぎゅっと握った。
「お前を盾にする気なんてないよ。瞳にはお前が必要だって、わかってるから」
「何を……!」
黒猫の手の平が熱くなる。光の粒が……僕の体に集まり始めた。
「だ、だめだよ! そんなのだめだ!」
「瞳の側に、いてやって」
どこか寂しそうな、それでいてとても穏やかな顔だった。黒猫はそのまま目を閉じた。
「この力、人間で成功したことないんだよな。失敗したら……ごめん」
僕の体が空に溶ける。僕の存在が薄れていく。五感が失われ、思考さえも曖昧になる。しっかりしていないと意識を手放してしまいそうだ。
僕たちの異変を見て、西園寺たちが何か叫んでいた。だけど、何を言ってるんだろう。僕には聞こえなかった。
ぼやける視界の中、黒猫の口が動いた。声は聞こえなかったけど、きっと黒猫はこう言ったんだ……。
「――座標交換」