表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
遭遇! 【七月三十日 火曜日】
9/100

8

 すると……猫耳さんの両手にきらきらと光が集まってきた。小さな光の粒が次第に凝集して、何かをかたどっていく。パンッと光が弾けたかと思うと、猫耳さんの紅葉みたいな手の上には、僕がよく見慣れたものが鎮座していた。


「これで許して」


 猫耳さんが僕に向かってそれを放り投げる。パサッというビニール音と程よい質量。

 僕の手の中に落ちてきたのは、大好きな「たっぷり二色あんぱん」、しかも未開封品だ。


「邪魔してごめんなさい。そろそろ行かないと」


 あんぱんと猫耳さんを見比べる僕と、すべり台から僕を見下ろす猫耳さん。

 僕たちはほんの少しの間、見つめあった。決してロマンスなんてものじゃないけど、互いに次の言葉を模索しているようだった。

 猫耳さんは百八十度回転し、僕に背を向けると、すべり台の上から空へと高く跳躍した。ゆるやかな放物線を描き、大時計の上に着地する。


 人間とは思えない跳躍力。いや、猫だからいいのかな?

 僕の頭の中は混乱していた。これって猫の恩返し? 昔助けた猫があんぱん持ってお礼に来たとか……そもそも僕は猫を助けたことなんてあったっけ?


「待って!」


 猫耳さんは時計の上で振りかえった。とっさに呼び止めたのはいいものの、特に何か言いたいことがあるわけじゃなかった。どうしよう、何を言えばいいのかな。


「あの……せめて名前だけでも!」


 ベタだ。なんてベタなんだろう。でも名前を聞かなきゃ呼べない。いつまでも猫耳さんってわけにはいかないし。


「……黒猫」


 そう言って、猫耳さん……いや、黒猫さんは再び宙を舞い、闇夜に消えてしまった。まるで猫のように颯爽と。


「黒猫さんかぁ」


 ハンドルネーム・黒猫ってことだね。家に帰って、もらったあんぱん食べながら、ネット検索でもしてみようかな。黒猫さんのコスプレ写真が出てくるかもしれない。せっかくだからこれを機に、公園で密会しながらぜひともお近づきになりたいところだ。


「ん?」


 大時計の下でチラチラと光るものがあった。僕はそれに近づき、手に取った。


「指輪?」


 それはプラスチックの赤い宝石がついた指輪だった。お菓子のおまけみたいなおもちゃの指輪。子供が集まる公園だから、誰かが落としたのかもしれない。

 でも、もしかしたら、さっきの黒猫さんが落としたものなんじゃ……?

 僕は指輪を握りしめ、ポケットにしまい込んだ。

 これを持っていたら、黒猫さんにまた会える。……そんな気がしたんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ