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高遠さんの声を聞いた警備員たちが、続々と集まってくる。えっと……まずいよね、これ。
「よそ見するな!」
塀まであと二十メートル……十メートル……。このまま逃げ切れる! そう思った時だった。
「そこまでだ!」
「きゃっ……!」
木の陰から警備員の巨躯が飛び出し、黒猫の体に体当たりした。大男の体当たりに耐えきれず、黒猫の体は地面に倒れこんだ。
「さっきは……よくも!」
侵入した時に倒した警備員だ!
少し足元がおぼつかないけど、もうはっきりと目を覚ましている。しっかりと縛ったはずだったのに、自力で拘束を解いたみたいだ。
倒れた黒猫に、警備員がすかさず襲いかかる。黒猫は吹き飛ばされた衝撃で体を強く打ちつけたのか、地面から体を起こせずにいた。
「黒猫!」
僕は右足で踏みこみ、警備員との距離を詰める。両手を地につけ体を低くし、警備員の足を払った。
「貴様!」
「ごめんなさい!」
全力で謝罪しながら、僕はぐらつく警備員の首元に手刀を打ちこんだ。
「むっ……」
ドサリと警備員は地面に崩れ落ち、再び気を失った。仕方ないとはいえ、二度も叩きのめすのは申し訳ない気がした。本当にごめんなさい。悪いのは僕たちなのにね。
黒猫は僕の動きに驚いたように、目を丸くしていた。ペタリと地面に座りこみ、腰を抜かしている。
「一応、僕も空手やってたんだ。もうずいぶん昔のことだよ。……戦わないって決めてたんだけどね」
僕は苦笑しながら、黒猫の体を引っ張り起こした。蚊の鳴くような声で、黒猫はありがとうと呟く。
僕の方こそ、いつもありがとうだよ。僕は足手まといになってばかりだったから。
僕に起こされ、立ち上がった黒猫は、僕の顔……ではなく、その向こう側を睨んでいた。僕も黒猫の視線の先を追いかける。
「やっと追いつきましてよ」
息が止まりそうになった。
今の出来事で、西園寺は僕たちのすぐ後ろまで迫っていた。塀に設置された照明が一斉に僕たちの方を照らす。こんなの、塀になかったはずなのに……。
照明の数はどんどん増えていった。どうやら平常時には隠されていて、緊急時に現れる仕組みのようだ。もうどこにも隠れようがなかった。
「どうやら警備員では太刀打ちできないお相手のようですわね。ならば、わたくし自ら手を下して差し上げましょう!」
その言葉を言い終わるやいなや、西園寺は黒猫に襲いかかる。
「あぶな……っ!」
黒猫に加勢しようとしたものの、予想外の人物に行く手を阻まれた。