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僕は写真をそっとアルバムから抜き取った。裏を見ると、達筆な文字でこう書かれてあった。
〈大切な私の宝物ありすへ あなたのおばあちゃま喜美代より〉
「もしかして、これが隠し部屋の鍵?」
黒猫は無言で写真を取り、窓際にある写真立てを掴んだ。写真立てをひっくり返し、留め具を外していく。
「見て、ここ」
写真立ての蓋の裏側、コルクボード部分に小さなくぼみがあった。写真のメッセージ付近をよく見ると、黒いマイクロチップが張りつけられていた。それはちょうどくぼみと同じくらいの大きさだ。
チップがくぼみの位置にくるように、写真を写真立てにおさめる。そして黒猫は元々写真立てが置いてあった場所にそれを戻した。
ガコン……と何かが外れる音。その音は本棚の方から聞こえた。
「仕掛けが外れた、か」
黒猫が本棚をトンと押した。すると、カリカリとねじが巻かれるような音を立て、本棚が壁の中に沈みこむ。一番奥まで押しこまれると、今度は静かに右へとスライドした。
「こんなところに……」
「隠し部屋、あったね」
本棚の扉が開いた先に、鉄製の金庫が現れた。身の丈をゆうに超える大きさの扉だ。いつか見た映画で、銀行強盗がこんな金庫を破っていたっけ。厳重な守り……まさにラスボスといった感じ。
「よく写真立ての仕掛けに気づいたな。……一応褒めておく」
黒猫は僕を見ずにそう言った。本当、素直じゃないんだよね。でもやっぱり褒められると嬉しい。
「鍵を開けるぞ。ここは私が」
金庫の扉にはまたもや鍵がかかっていた。最新式の電子ロックだ。
「鍵だとわかれば簡単。開けるための道具ならいくらでもある」
玉井はバッグからケーブルと端末を取りだした。確かこのタイプはこの辺に差しこみ口が……とぼやきながら、電子ロックをペタペタと触る。
「この端末には、父さんが作ったプログラムが入ってる。破れない鍵はない」
黒猫は電子ロックと端末を繋いだ。ピッ、ピッとロックが解錠する音がする。
発明品だけじゃなく、プログラムまで作ってしまうなんて……要さんを敵に回すと恐ろしいことになるってことだけはよくわかったよ。