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愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
潜入! 【八月八日 木曜日〜八月九日 金曜日】
80/100

2

 足音一つ立てずに身を滑らせる様子はまさに猫。

 タンッと地面を強く蹴る音がしたかと思うと、その体は大きく宙に舞っていた。塀を余裕で飛び越えられる高さまで一気に跳躍する。最大高度に達した黒猫はしばらく空中で留まっているように見えた。


 あまりにも鮮やかな動作。ゆったりと滑らかに見えたものの、すべては一瞬のことだ。

 黒猫は塀の一番端にある監視カメラの近くに着地する。もちろんカメラにその姿は一片たりとも映っていないだろう。


 黒猫はバッグから鉛筆ほどの太さのドライバーを取りだし、監視カメラのカバーを開けにかかった。ひとつ、またひとつと手際よくネジを外していく。

 黒猫はカバーを森に放りなげると、中身のむき出しになったカメラにケーブルを突っこんだ。妖艶な笑みを浮かべながら、端末の画面をタッチする。いい子にしていてねとでも言いたげに、カメラのレンズに指を這わせる。


「あっ! 後ろ!」


 黒猫の後方、塀に設置されているもう一台のカメラが黒猫の方にレンズを向けようと、その首を動かし始めた。

 まるで狙いを定めて鎌首をもたげたヘビだ。このままだと姿が映ってしまう……!


 すると、黒猫はヒラリとその身を再び宙に躍らせた。

 僕なんかが心配するまでもなく、もちろんそのカメラの動きも完璧に把握していたみたいだ。黒猫は空中で華麗に一回転し、カメラのレンズと逆の方向に着地した。

 黒猫はニヤリと口元を歪め、さっきのカメラと同じように端末を繋げた。


「侵入経路確保。塀の下まで来い」


 耳につけた通信機から黒猫の声が聞こえた。僕は体をかがめ、塀に駆けよった。

 黒猫が塀の上に黒い半球状の装置を取りつけ、そこから細いワイヤーを垂らした。ワイヤーの先は足がかけられるように、三角の取手がついている。僕はそこに足をかけ、ワイヤーを掴んだ。黒猫が装置のボタンを押すと、自動でワイヤーが巻きとられ、僕の体は徐々に引きあげられるっていう仕掛けだ。


 塀の上からは庭が見渡せた。屋敷の窓はどれも暗い。誰もかれもが寝静まっている。

 しんとした静寂の中、僕の息遣いだけが響いていた。


「ここまでは順調だな。正面玄関は警備員も多かったようだけど、山側はカメラメインで警備しているはずだ。巡回の警備員には気をつけろ。カメラと違って、どこを見てるかわからないからな」


 黒猫は軽やかに塀の下に飛びおりた。軽やかに、とはいかないけど、僕でもなんとか降りられそうな高さだ……ドスッ。

 その音に黒猫は苦々しげに舌打ちした。それ以上黒猫は何も言わなかったけど。僕はただただうなだれるだけ。もっとうまく降りられると思ったのになぁ。


「誰だ!」


 いきなり眩い光に包まれ、目の前が真っ白になった。光に目が慣れてくると、今度は黒い影が僕たちを覆った。

 僕は息を止めた。しまった……! 懐中電灯の明かりだ!


「お前ら何をしている!」

「ふんっ!」


 腹の底に気合をためる黒猫。そして、僕の隣にいた黒猫の姿が一瞬にして消えうせた。目にも止まらぬ速さっていうのはこのこと。

 黒猫は警備員の前に躍り出ていた。


「はっ!」


 黒猫は警備員の懐に潜りこむと、鳩尾めがけて強烈な一発を繰り出した。ブンっと黒猫の右腕がうなる。


「かはっ!」


 警備員は乾いた声で喘ぐと、そのまま地面に倒れこんだ。


「もっとスマートに行きたかったんだけど」


 よいしょ、と黒猫は倒れている警備員の足をむんずと掴んだ。


「ちょっと、ぼさっと見てないで手伝え」

「は、はい」


 僕もすぐさま黒猫に駆けより、警備員の足をつかむ。

 鍛えているせいか……警備員の体は筋肉質で重い。そのまま体を庭の隅に引きずって行き、ロープでグルグル巻きに縛った。見つからないよう、二人で木の影に警備員を隠す。

 手荒なことしてごめんなさい。僕を恨まないでね。そう思いながら、目を回している警備員に合掌した。


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