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「あと……いつ決行するか、だよね。花野さんのお母さんの手術が始まる前に……懐中時計を取り戻してあげたいな」
「うん、そうだね」
手術は夏休みの終わりにある……それまでにはなんとか手を打たないといけない。
懐中時計を花野に返してあげることができたら、お母さんの手術はきっとうまくいくような気がする。花野だって手元に懐中時計があれば、心強いって思うに違いない。
「あたし、今からもう一回透視しようか? その部屋の入り方が分からないことには身動き取れないでしょ?」
「それだけは絶っっっ対ダメだ!」
玉井が大声で瞳を制した。
あんなに憔悴した瞳を見てしまったからには、むやみに透視をしろとは言えない。僕だって大反対だ。
「あ」
ふと僕は思い出した。どうして今まで気づかなかったんだろう……西園寺が家を空ける時を。絶対に帰ってこない、そう言いきれる日があるんだ。
「何、いい案でもあるのか?」
玉井が仏頂面で僕を見た。そんなに睨まないで、そんなに!
「初美が言ってたんだ、確か。明日、空手同好会の合宿だって。二泊三日」
「それがどうした」
「西園寺も空手同好会に入ってるんだ。明日、明後日は確実に家にいないってことだろ」
瞳がポンっと手を叩いた。
「部屋に入ることさえできれば、ちょっとくらい時間がかかっても平気ってわけね。だって西園寺さんは部屋に帰ってこないんだもん。隠し部屋を探す時間は十分にあるね!」
玉井は親指の爪をかじりながら、ぶつぶつと何やら独りごちる。
「そんなに簡単に見つかるのか? でもそれ以外に思いつかない……そうだな……瞳の力に頼らなくても済むなら……」
玉井はよし! と気合を入れると、両手で自分の頬を赤くなるくらい強く叩いた。
「八月九日、深夜零時。西園寺邸に潜入する」
僕たちは互いに顔を見合わす。
ついに本番だ。失敗は許されない――。