10
*****
部屋に入り、玉井は部屋の中央にある大机に地図を広げた。北野山周辺の地図だ。
「というわけで、作戦会議、いいかな?」
僕と瞳も大机の前に移動し、席につく。玉井はホワイトボードを引っ張り出し、僕たちの前でふんぞり返った。
「西園寺邸は北野山学園からちょうど西に八キロ、鳴海地区にある。ここは富裕層が住んでいる住宅街だ。どの家も一軒一軒、敷地が広い」
玉井はすっと地図を指でなぞった。鳴海地区の北側に連なる山脈を指さす。そして、トントンとある一点を叩いた。
「住宅を通り抜けていくことは不可能だ。セキュリティが強固だからな。西園寺邸はここ、ちょうど山の麓にある。鳴海地区で最も広大な敷地面積を誇っている」
「山側から侵入するっていうこと?」
僕の問いかけに、玉井は首を縦に振った。
「ほぼ正方形の敷地の中央に、屋敷はある。警護の手薄な北の山側から侵入するのがベストだろう。塀には防犯カメラがついているようだけど、私が何とかする。西園寺ありすの部屋は、南西の角部屋だ。北の塀を乗り越え、庭を横切る。巡回している警備員に見つからないように、ここは慎重に行くぞ。私が先導するから、あんたは私が合図するまで行動するな。その後は……一階の厨房の窓から入ろう。ちょうど西園寺ありすの部屋の真下に当たる」
手なれているのか、玉井はサクサクと作戦を決定していった。ホワイトボードに簡単な西園寺邸の見取り図を描き、赤いペンで侵入経路を書きこむ。
あの短い透視時間で、警護やセキュリティのことまで見ていたなんて……僕は部屋の観察をすることで精いっぱいだったのに。
瞳は直接この作戦に参加するわけじゃないけれど、真剣に玉井の話を聞いていた。
玉井は赤ペンのふたをきゅっと閉めると、腕を組んで考えこんでいる。
「警備と監視カメラさえ注意すれば、クリアするのはそんなに難しくない。金持ちなのに、案外手薄なんだな」
「問題は隠し部屋だね」
瞳が見取り図を睨みつけながら唸った。
そうなんだよね……隠し部屋に懐中時計が隠されているのはほぼ間違いないと思うんだ。
だけど隠し部屋への道が分からない。ターゲットに手が届きそうなのに、届かない。