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「優人くん、心配かけてごめんね。もう元気。大丈夫だよ」
大辻にやってきた瞳は開口一番そう言った。なんとなくまだ顔色が優れないような気はするけど、ちゃんと休めたのか、足取りはしっかりとしていた。
頭の中から西園寺邸の間取りが消えてしまわないうちに、潜入計画の最終調整をしようと言い出したのは瞳だった。
玉井は一日休むように言ったけど、頑として瞳は聞き入れなかった。どのルートで潜入するのか、どういった方法でターゲットを盗み出すのかを話し合うんだって。
辻屋に着くと、玉井はエプロン姿で店の手伝いをしていた。
「今ちょうど三時で忙しい時間帯なんだ。アイスクリームごちそうするよ、奥で食べながら待ってて」
「やった!」
指定席についた僕らに、玉井がアイスクリームを運んできてくれた。瞳はそれをおいしそうに頬張った。ついさっきまでぶっ倒れていた人間の食欲とは思えない。
「優人くん、いらないの? じゃああたしがもらうね!」
「あ、あ~~~!」
僕の許可も得ず、瞳は僕のアイスクリームをひょいと手に取った。
食べ過ぎはよくない、うん。病み上がりの人はお粥でも食べてればいいんだよ、そうだそうだ。
僕はスプーンを握りしめ、瞳のアイスクリームを奪いかえそうと戦闘態勢に入る。
「あんたたち、いつもうちの店でそんな調子なのか? よく飽きないな。アイスクリームくらいいくらでも出してあげるから、そんな意地汚いことするな、瞳」
玉井が新しいアイスクリームの皿を持ってやってきた。エプロンはいつの間にか脱いでいた。
「店の方、落ち着いたから。しばらくは父さんだとばあちゃんだけで店回せそうだ。私の手伝いはもういいってさ」
玉井は僕たちのテーブルに腰をおろし、瞳と僕がアイスクリームを食べ終わるのを待ってくれた。二人の器からアイスがすっかり消えてなくなった後、僕たちは例の秘密部屋へ向かった。