表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
透視! 【八月七日 水曜日】
75/100

8

 瞳の家に行くと、親父さんが座敷で待っていてくれた。

 眠っている瞳の姿を見ると、慌ててタオルケットを取りにいき、僕の腕で眠る瞳にふわりとかける。


「ちょっと待っててね」


 そう言い残し、親父さんは再び座敷に引っこんでしまった。しばらく待つと、親父さんが部屋からひょっこり顔を出し、入って入って、と僕たちを手招きした。


 畳の上には布団が敷かれてあった。来客用の布団を引っ張りだしてきたのか、つんと鼻をつく樟脳しょうのうのにおいがする。

 瞳の部屋まで運びますよ、と言うと親父さんはこう言った。


「瞳も年頃でね。いくら非常事態でも、勝手に部屋入ると怒られるかなって」


 親父さんは弱々しく笑う。僕たちは黙って首を縦に振り、布団に瞳をそっと寝かせた。


「お茶を入れようか。優人くん、那智ちゃん、そこで瞳のことを見ていてくれるかな」


 親父さんは瞳を起こさないように静かに立ちあがり、部屋を後にした。


 古めかしい振り子時計がカチカチと時を刻む。待ちあわせの時間からもう二時間も経っていた。


「どれくらいの時間、透視してたんだろうね」

「わからない。でも前もそうだった。体感では時間が経った感じがしないのに、実際は結構時間がかかってるんだ。瞳は長時間、ぶっ通しで力を使い続けていたんだ……」


 西園寺邸を見ていた時間はほんの数十分くらいにしか感じなかったのに。瞳はどれほど無理をしていたんだろう。

 懐中時計を取りもどすためには、瞳の力が不可欠だ。無計画に潜入していたら、きっと時計の在り処すらわからなかっただろう。


「瞳のお母さん、亡くなっているのは知ってるよな?」

「え? うん、一応」

「事故で亡くなったことになっているけど、本当は違うんだ。瞳とおじさまが出かけている間に、瞳のお母さん……力を使っていたんだ。力を使いすぎて……二度と目を覚まさなかった」


 僕は自分の耳を疑った。信じられなかった。

 確か……瞳のお袋さんは家の階段から落ちて亡くなったはず。

 大した階段ではなかったけれど、打ち所が悪くて帰らぬ人になったんだと。運が悪かったんだと……。いつか瞳がそう話してくれたのを思い出す。


「私のお母さん――現≪黒猫≫なんだけど――瞳のお母さんと、昔、一緒に仕事してたんだ。今の私と瞳みたいに。すごく厄介な仕事があって……私のお母さんの役に立ちたいからって、無理して連続で力を使ったみたいなんだ」


 瞳が目を覚まさなかった時に、あれほどまでに玉井が狼狽していたのはそういうことだったんだ……。


「西園寺邸への侵入、絶対成功させる。もう瞳の力には頼れない……瞳に負担はかけたくない。ここからは私たちで何とかする。私だって次期当主なんだから……」


 言われるまでもない……これ以上瞳に無理はさせられない。もしも瞳がいなくなったら……考えるだけでぞっとする。

 僕は強いまなざしで眠る瞳を見つめ、布団からのぞく真っ白な瞳の手を、両手で包みこんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ