8
瞳の家に行くと、親父さんが座敷で待っていてくれた。
眠っている瞳の姿を見ると、慌ててタオルケットを取りにいき、僕の腕で眠る瞳にふわりとかける。
「ちょっと待っててね」
そう言い残し、親父さんは再び座敷に引っこんでしまった。しばらく待つと、親父さんが部屋からひょっこり顔を出し、入って入って、と僕たちを手招きした。
畳の上には布団が敷かれてあった。来客用の布団を引っ張りだしてきたのか、つんと鼻をつく樟脳のにおいがする。
瞳の部屋まで運びますよ、と言うと親父さんはこう言った。
「瞳も年頃でね。いくら非常事態でも、勝手に部屋入ると怒られるかなって」
親父さんは弱々しく笑う。僕たちは黙って首を縦に振り、布団に瞳をそっと寝かせた。
「お茶を入れようか。優人くん、那智ちゃん、そこで瞳のことを見ていてくれるかな」
親父さんは瞳を起こさないように静かに立ちあがり、部屋を後にした。
古めかしい振り子時計がカチカチと時を刻む。待ちあわせの時間からもう二時間も経っていた。
「どれくらいの時間、透視してたんだろうね」
「わからない。でも前もそうだった。体感では時間が経った感じがしないのに、実際は結構時間がかかってるんだ。瞳は長時間、ぶっ通しで力を使い続けていたんだ……」
西園寺邸を見ていた時間はほんの数十分くらいにしか感じなかったのに。瞳はどれほど無理をしていたんだろう。
懐中時計を取りもどすためには、瞳の力が不可欠だ。無計画に潜入していたら、きっと時計の在り処すらわからなかっただろう。
「瞳のお母さん、亡くなっているのは知ってるよな?」
「え? うん、一応」
「事故で亡くなったことになっているけど、本当は違うんだ。瞳とおじさまが出かけている間に、瞳のお母さん……力を使っていたんだ。力を使いすぎて……二度と目を覚まさなかった」
僕は自分の耳を疑った。信じられなかった。
確か……瞳のお袋さんは家の階段から落ちて亡くなったはず。
大した階段ではなかったけれど、打ち所が悪くて帰らぬ人になったんだと。運が悪かったんだと……。いつか瞳がそう話してくれたのを思い出す。
「私のお母さん――現≪黒猫≫なんだけど――瞳のお母さんと、昔、一緒に仕事してたんだ。今の私と瞳みたいに。すごく厄介な仕事があって……私のお母さんの役に立ちたいからって、無理して連続で力を使ったみたいなんだ」
瞳が目を覚まさなかった時に、あれほどまでに玉井が狼狽していたのはそういうことだったんだ……。
「西園寺邸への侵入、絶対成功させる。もう瞳の力には頼れない……瞳に負担はかけたくない。ここからは私たちで何とかする。私だって次期当主なんだから……」
言われるまでもない……これ以上瞳に無理はさせられない。もしも瞳がいなくなったら……考えるだけでぞっとする。
僕は強いまなざしで眠る瞳を見つめ、布団からのぞく真っ白な瞳の手を、両手で包みこんだ。