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「ああ……」
戻ってきたんだね、ここに。元の場所に。
「……って瞳! おい!」
脱力してる場合じゃない!
円の中心で、瞳は倒れていた。僕は力を失い、床に突っ伏す瞳を両腕でかき抱いた。きっと体力を使い果たしてしまったんだ。僕の叫び声で玉井も現実に引きもどされる。
「瞳!」
玉井は四つん這いで瞳の側に転がりこんできた。いくら激しく瞳の体を揺さぶっても、腕の中の瞳が目を覚ます気配は一向に感じられない。
かろうじて息はしているものの、 瞳の唇は血の気を失っていて、手足の末端は氷のように冷たかった。
「ひ……瞳! 瞳!」
顔面蒼白になりながら、玉井は瞳の体を必死でゆり動かす。なかなか目を覚まさない瞳。さっきまであんなに元気だったのに……。
「お、おい! 瞳!」
「ん……」
ピクリと瞳の指が動いた。顔を見ると、苦しそうに眉をひそめている。
瞳は不規則に荒々しい呼吸をして酸素を取りこむ。瞳の頬に次第に赤みが戻ってきていた。
「なっちゃん、優人くん……?」
「瞳……よかった……」
瞳の瞼がゆっくりと持ちあがった。焦点は定まっていないものの、その顔には笑みが浮かんでいる。
「えへへ、ちょっと頑張りすぎちゃったかな」
そう言って、瞳はペロリと舌を出した。
「馬鹿……っ……! 無茶ばっかり!」
玉井は涙ぐみながら瞳に強く抱きついた。瞳は玉井の肩にしばらく顔をうずめ、それから、もう大丈夫だよと玉井を抱きかえした。
ひとまず玉井は安心したのか、瞳から体を離す。瞳の肩を支えながら、玉井は話題を西園寺邸に移した。
「西園寺邸の大体の様子は分かった。問題は隠し部屋の仕掛け。おそらく西園寺ありすが現れたあたりにヒントがあると思う」
「ごめんね、隠し部屋の仕掛け、見落としちゃって」
「いいって、瞳はしばらく休んで。ここからは私の領域だ。任せて」
わかった、と瞳は小さくつぶやいて、玉井にもたれかかって眠ってしまった。
一瞬、気絶したのかとヒヤッとしたけど、瞳の呼吸は規則的で穏やかなものだった。とりあえず心配はなさそうだね。
「家に連れて帰って寝かせた方がいいんじゃないかな。いくら夏でもこんなところで寝かせたら風邪ひいちゃうよ」
僕は瞳の体をお姫様抱っこ。玉井は何か言いたげに口を開いたけど、瞳の体調が最優先だと思い直したのか、口をつぐんだ。
おおかたいつものように、瞳に触るな変態、とでも言うつもりだったのかな。
何にせよ、瞳の身が一番、という点では二人の意見は同じ。
玉井はロウソクの火を手で仰いで消すと、そっと本殿の扉を閉じた。