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愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
透視! 【八月七日 水曜日】
74/100

7

「ああ……」


 戻ってきたんだね、ここに。元の場所に。


「……って瞳! おい!」


 脱力してる場合じゃない! 

 円の中心で、瞳は倒れていた。僕は力を失い、床に突っ伏す瞳を両腕でかき抱いた。きっと体力を使い果たしてしまったんだ。僕の叫び声で玉井も現実に引きもどされる。


「瞳!」


 玉井は四つん這いで瞳の側に転がりこんできた。いくら激しく瞳の体を揺さぶっても、腕の中の瞳が目を覚ます気配は一向に感じられない。

 かろうじて息はしているものの、 瞳の唇は血の気を失っていて、手足の末端は氷のように冷たかった。


「ひ……瞳! 瞳!」


 顔面蒼白になりながら、玉井は瞳の体を必死でゆり動かす。なかなか目を覚まさない瞳。さっきまであんなに元気だったのに……。


「お、おい! 瞳!」

「ん……」


 ピクリと瞳の指が動いた。顔を見ると、苦しそうに眉をひそめている。

 瞳は不規則に荒々しい呼吸をして酸素を取りこむ。瞳の頬に次第に赤みが戻ってきていた。


「なっちゃん、優人くん……?」

「瞳……よかった……」


 瞳の瞼がゆっくりと持ちあがった。焦点は定まっていないものの、その顔には笑みが浮かんでいる。


「えへへ、ちょっと頑張りすぎちゃったかな」


 そう言って、瞳はペロリと舌を出した。


「馬鹿……っ……! 無茶ばっかり!」


 玉井は涙ぐみながら瞳に強く抱きついた。瞳は玉井の肩にしばらく顔をうずめ、それから、もう大丈夫だよと玉井を抱きかえした。

 ひとまず玉井は安心したのか、瞳から体を離す。瞳の肩を支えながら、玉井は話題を西園寺邸に移した。


「西園寺邸の大体の様子は分かった。問題は隠し部屋の仕掛け。おそらく西園寺ありすが現れたあたりにヒントがあると思う」

「ごめんね、隠し部屋の仕掛け、見落としちゃって」

「いいって、瞳はしばらく休んで。ここからは私の領域だ。任せて」


 わかった、と瞳は小さくつぶやいて、玉井にもたれかかって眠ってしまった。

 一瞬、気絶したのかとヒヤッとしたけど、瞳の呼吸は規則的で穏やかなものだった。とりあえず心配はなさそうだね。


「家に連れて帰って寝かせた方がいいんじゃないかな。いくら夏でもこんなところで寝かせたら風邪ひいちゃうよ」


 僕は瞳の体をお姫様抱っこ。玉井は何か言いたげに口を開いたけど、瞳の体調が最優先だと思い直したのか、口をつぐんだ。

 おおかたいつものように、瞳に触るな変態、とでも言うつもりだったのかな。

 何にせよ、瞳の身が一番、という点では二人の意見は同じ。

 玉井はロウソクの火を手で仰いで消すと、そっと本殿の扉を閉じた。


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