6
その時、カチリと背後で音がした。同時に天井のシャンデリアがパッと灯る。
まさか……そんなはずはない。この部屋には誰もいなかったはずだ。
それなのに……なぜか部屋には寝巻き姿の西園寺がいた。
髪はドライヤーで乾かしきれていないのか、少し濡れている。普段とは違う、隙だらけの西園寺の姿にドキドキしてみたり。
隠し部屋、かな?
そうでなければ、突然西園寺が現れたことの説明がつかない。でも、僕たちは隠し部屋から西園寺が出てくる、決定的な一瞬を見逃してしまっていた。
西園寺の背後にはクローゼットと洋書のびっしり並んだ本棚がある。英才教育を受けている上に、母親が英語圏の出身、やっぱり英語が堪能なんだろうか。
怪しいとしたらこのあたりなんだけど……僕は目を凝らす。どこにも隠し部屋のスイッチも、扉も見当たらなかった。
西園寺はベッドサイドのテーブルにある水差しを手に取り、コップに水を注いだ。透明な水差しの中にはレモンと氷が浮かんでいる。西園寺が水差しを元の場所に置くと、中の氷がカラリと音を立てた。
西園寺は一気にその水を飲み干す。ほっと一息つくと、顔からベッドに倒れこんだ。
「おばあさま……」
西園寺の体は微動だにしない。西園寺は首だけを動かし、水差しの脇にある写真立てを見つめた。
そこには西園寺の祖母らしき人物が写っていた。写真の人物の手には、あの懐中時計が握られている。
西園寺が懐中時計を奪った理由。
祖母が持っていた物を他人が――ましてや祖母を捨てた人間が持っているのが我慢ならなかったのかもしれない。
「おばあさま……」
そして西園寺の頬を一筋の涙が伝い落ちた。
「だめだ、二人とも、そろそろ限界だよ……戻るね」
瞳の声が頭の中で響きわたる。
どうして泣いているの、西園寺……。
目の前の西園寺は次第に薄れていった。