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僕は西園寺邸の真上にいた。
暗くて視界が悪いにも関わらず、西園寺邸の広大さはよくわかった。学園の敷地が三つは入りそうな広さ……そう、とにかく広い。
敷地のほとんどを占める庭は、かなり丁寧に手入れされている。イギリス人である母親の趣味だろうか、几帳面に整えられたローズガーデンだ。その庭の中心には噴水がある。
噴水から離れたところには小さなガラス屋根付きの休憩所。可愛らしい、白いテーブルセットが備えてある。
きっと天気がいい日は、執事に淹れてもらった紅茶でも飲みながら、優雅に過ごすんだろうな。そこでお茶会をする西園寺と高遠さんの姿が目に浮かぶ。
屋敷の正面は、まるで高級ホテルのような造りになっている。物々しい大きな門からは石畳みの道が敷かれていて、入り口の前には五、六台は車が出入りできるであろう、ゆったりとしたスペースが広がっていた。
もちろん、大豪邸を警備するための警備員が、門から等間隔に配備されている。それとはまた別に、巡回する警備員もいるみたい。ひっそりとした敷地内で、規則的に歩き回っていた。
しばらく上空から敷地を見渡すと、正面玄関へと視界が移動した。
玄関にも二人、警備員が立っている。監視の目を光らせる警備員の前に来ると、見つかったような気がして落ち着かなかった。
屋敷は十九世紀イギリスの古き良きカントリー調といったところかな。柔らかなベージュの煉瓦造りで、屋根は暗い赤色だ。
壁には青々とした蔦がところどころ絡みついている。大きな四角い窓がいくつもあり、開放的な雰囲気だ。
このデザイン、日本に嫁いできた西園寺の母親が、故郷を感じられるようにってことかな。
そのまま警備員の脇をすり抜け、邸内へと足を踏み入れた。
ワインレッドの絨毯が敷かれただだっ広いホールを抜け、一つ一つの部屋を見て回る。とりあえず大まかな部屋の配置を覚えておく必要がありそうだ。
一階は応接間、リビング、食堂、キッチンそして従業員のスタッフルーム。
応接間には現西園寺コーポレーション会長である、西園寺康之の肖像画がかけてあった。大きな暖炉の前にはこれまた大きなソファ。
暖炉に肖像画なんていかにもお金持ちっぽいよね。
食堂の真ん中には白いクロスがかかった長いテーブル。端から端まで五メートルはありそうだ。テーブルの上には金の燭台が三つ置かれてあった。
西園寺には兄妹がいないって言ってたよね。三人家族でこのテーブルは……なんだか味気ない食事になりそう。それも庶民の感覚なのかな。
一階はこんなところだ。
僕たちはホールに戻り、中央の大階段を上がった。上った先は左右に廊下が分かれていた。
まずは向かって右方面を探索することにする。