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「お待たせ。優人くんはここに、なっちゃんはここに座って」
準備を終えた瞳は僕たちを手招きすると、円の中心に正座した。瞳の正面にはご神体がある。鏡はロウソクの明かりを静かに映していた。僕と玉井は円の縁に座る。瞳を挟んで、ちょうど正反対の位置だ。
「優人くん、例の物、あった?」
「あ、うん。これだよ」
僕はジーンズのポケットから、四つ折りにされたメモ帳を出した。瞳は慎重にそれを受けとると、壊れ物を扱うかのような手つきでそれを広げた。
「うん、これならなんとかなりそう」
持ってくるように頼まれたのは、西園寺が僕の家で書き散らしていたメモ帳だ。正確には西園寺が触れていたものを持ってきてほしい、というのが玉井の指令だった。
……危うくごみに出されそうだったのを必死で漁ったんだよ。水曜日は燃えるごみの日だからね。
一心不乱にごみ箱をひっくり返す僕を見て、家族は救急車を呼ぼうとしていたっけ。まあ、瞳のクッキーを食べてぶっ倒れた後だったから、心配されても仕方ないけど。
瞳は西園寺のメモ帳を懐にしまうと、厳かな口調で語り始めた。
「今から西園寺さんのお屋敷を透視します。二人には西園寺邸の中の様子を精神感応で送るから、きっちり頭の中に叩きこんでおいてください」
「わ、わかりました」
緊張で声が上ずってしまった。実際に西園寺邸に潜入するわけじゃないのに、あたかも今から計画を実行に移す感覚だ。
透視した時に、西園寺のあられもない姿を見てしまったらどうしよう……緊張の中で、ほんのり青少年らしい期待もしておくことにするね。
「過去視の時とは違って、会話のやり取りなんかはできません。現在を透視するのは、過去視以上に体力を使うから。みんなにあたしが見ているものを伝えるので精一杯。でもなるべく細かいところまで探るね」
すぅっと瞳が大きく深呼吸した。深く呼吸を整えると、瞼を閉ざす。
玉井も瞳に合わせて目を閉じた。僕も集中するために深呼吸。
目を閉じると、瞼の向こう側でロウソクの炎が揺らめいているのが感じられた。それ以外はもう何もわからない。だんだん感覚が遮断されていく。
過去視の時と同じように体が気怠く、重くなり……僕は眠るように暗闇へと落ちていった。