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愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
遭遇! 【七月三十日 火曜日】
7/100

6

 *****


 さすがに甘いものを食べた直後の夕食はかなりきつかった。だけど、これでも育ちざかりの高校生。夕食をたいらげ、風呂に入ると……あら不思議、あっという間に空腹が僕を襲った。

 ジャージとTシャツ、サンダル履きという近所の買い物スタイルで僕は家を出た。団地を抜けてふらふらとコンビニへと向かう。街灯のあかりがぼんやりと夜道を照らしていた。

 こんな田舎道では今の時間は人っ子一人いない。空腹で夜道をふらついてるのは僕くらいだ。ぐう、と腹の音が静かな通りに響いた。


「お腹すいたなあ」


 僕はコンビニで「たっぷり二色あんぱん」と牛乳を買った。つぶあんとこしあんがダブルで楽しめるという、あんぱん好きにはたまらない一品だ。

 店を出るやいなや、僕はコンビニの袋に手を突っ込む。袋からあんぱんを取りだし、封を開けてむさぼりついた。さらにもう一口、あんぱんをかじり、牛乳を飲んだ。あんぱんに奪われた口の中の水分を、牛乳で補給する。


「いい天気」


 そう呟いてしまうほど空は澄みわたっていた。おまけに今日は満月だ。

 遠回りをして夜の散歩っていうのも悪くない。空を見ていると、このまま真っ直ぐ家に帰って寝るのももったいない気がした。

 そうだ、この先の公園で真夏の月見と洒落こもう。月見のお供はあんぱんに限る! 異論は認めない!


 白河神社のすぐ裏手に、北野山公園はある。小さいながらも手入れの行き届いた公園だ。公園の真ん中にある大時計の針は九時半をまわったところを指していた。

 僕は大きな象のすべり台にのぼった。小学生の頃、なんなくのぼれたすべり台。今の僕はのぼりきるころにはすっかり息切れしていた。思わず苦笑いする。


「年寄る波には勝てないなあ」


 頭上には空以外に何もない。ビルも、木も、街灯も、電線すらない。月と星があるだけだ。

 僕は手元のあんぱんを見つめた。大好物のあんぱん……食べてしまうのは名残惜しいけど、この最後の一口を口にする瞬間が至高の瞬間なんだよね!

 だけど、あんぱんを頬張ろうとしたその時、僕の手元が陰った。さっきまでは月明かりで、つぶあんの一粒一粒がくっきりと見えていたのに。

 天気が崩れてきたのかな? 僕は天を仰いだ。


「……え?」


 とにかく……黒い。僕の頭上だけぽっかりと切りとられたように黒かった。人の形をした黒い影。しかもその黒い影はだんだん大きくなり……こっちに近づいてくる!


「わ……わわわわわ!」


 僕は急いで逃げようとした。でも、それは間に合わず……。

 グシャッという音とともに、体に衝撃が走った。何かが落ちてきて、僕にぶつかった感触。

 気がつくと、僕はあおむけの状態で影の下敷きになっていた。

 顔を少し起こしてみると、影の……お尻が眼前にあった。小ぶりできれいなピーチ。

 バンキュバンなおねえさんが好きな僕でも危うく目覚めそうになる。もしかして、これがロリ……いや、僕はおねえさんが好きなんだ!

 いつまでもこのままでいるわけにいかない。僕は微動だにしないピーチに向かって声をかけた。


「あの、すみません」

「なっ……!」


 影が息を呑む。一瞬で僕の体にかかっていた重みが消え、体が軽くなった。影はゴキブリ並みの速さで後ずさり、すべり台の上、落ちるか落ちないかギリギリとところで身を縮めていた。

 満月のあかりが影を照らす、はっきり顔はわからないが、そのシルエットは確かに人間のものだ……たぶん。


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