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まるで零時になるのを待ち構えていたかのように社務所の方からサンダル履きの足音が聞こえた。ペタペタと僕たちに近づいてくる。
「ごめん、お待たせ!」
小走りでやって来た瞳。私服姿かと思いきや、巫女装束にわざわざ着替えている。
「僕、こんなカッコだけどいいのかな?」
僕は無地のTシャツにジーンズという素っ気ない自分の出で立ちを指差した。
正装しなきゃいけないんだったら、ちゃんとしてきたのに。といっても、せいぜい制服くらいしか持ってないんだけどね。
「いいよ、気にしないで。さ、入って」
瞳は本殿の扉を開けた。今回は僕たちが来ることになっていたからか、予め鍵は開けてあった。前もって開けていてくれたおかげで、初めて本殿に入った時に感じた、こもった重苦しい空気はなかった。
ロウソクが二本、ご神体の前で明々とゆらめいている。以前とは……なんとなく雰囲気が違う。
床には大きな敷物。赤い染料で大きな円が描かれていて、その周囲に均等な間隔で六本のロウソクが立っていた。儀式めいた雰囲気に、自然と背筋がピンとのびた。少しの乱れも許されない、でも些細なきっかけで乱れてしまう空間。
「別に、この円やロウソクに意味はないんだけどね。ずうっと前の代の《白犬》からこの形式なんだって。おまじないみたいなもの。集中しますよ〜、っていう合図なのかな」
だからそんなに緊張しないで、と瞳は近所のおばちゃんがするように、手をパタパタとはためかせる。さあ、本領発揮、頑張るぞ~、なんて瞳は張り切りモードだ。
「玉井は瞳の透視に立ち会ったことあるの?」
「もちろん、さなの指輪も、瞳に透視してもらったからな」
「僕も何か手伝った方がいい?」
「余計な気遣いはいらない。ここは瞳に任せろ」
きっと僕にもできることが……と思っていたけど、呆気なく撃沈する。
瞳が準備を整えている間、僕と玉井は本殿の入り口でただ棒立ちになっていただけだった。玉井は何も話そうとはせず、僕だけが一人、そわそわしている。
「適材適所っていうだろ。あんたはあんたにしかできないことがある。気にする必要ない」
「僕にしかできないこと?」
むしろ僕は今まで足を引っ張ることしかしていないような。
「あんたは、瞳のそばにいて。支えてあげて」
また僕と瞳のことを勘違いしてる……。誤解だ、と言おうと思ったけど、玉井の横顔は真剣そのものだった。
否定ならいつでもできる。今は玉井の言葉を素直に受け取っておこう。僕はそう思った。