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西園寺は僕と目を合わせようとはしなかったけど、ぽつぽつと自分のことを語ってくれた。僕はそれがなんだか嬉しくて、ついつい饒舌になる。
「僕は毎年年末にいとこのところに遊びに行ったりするんだ……そういうのも楽しいよ。西園寺ももっと、みんなと仲良くしてみたらいいのに」
「いとこ……ですか」
西園寺は口の端を歪め、自嘲気味に笑った。
「うん、一緒にスケートに行ったりするんだ。初美のやつ、スケートできないんだ。毎年行ってるのにいい加減覚えろよ~って。運動神経は悪くないはずなんだけどなあ」
僕はまくしたてるようにしゃべった。
西園寺は黙って、合宿所のパンフレットを見つめていた。気まずいながらも、西園寺とうまく会話できてるんじゃないかってそう思ってた。
だけど、そんなに物事ってのはうまくいかないんだね。僕はそれを痛感することになる。
「いとこなんて、会ったこともありませんし、会うつもりもありませんわ」
西園寺の様子が……なんだかおかしい。涼しげな表情、大金持ち特有の余裕。僕の中の西園寺はそんなイメージだ。
今の西園寺は僕のイメージとはまったくかけ離れた表情をしていた。
切羽詰っている。じんわりと静かな怒りが滲みでているのがわかった。
「いいですわね、庶民は。何のしがらみもありませんのね。悩むことなんてございませんでしょう? へらへらと……気楽なものですわ」
西園寺はぎゅっと膝の上で拳を握りしめた。きつく握りしめすぎていて、その拳は白くなっていた。
「親戚だからといって、全員が味方だと思っているのですか。西園寺を裏切った者にまで愛想をふりまけと、そうおっしゃるのですわね」
「ちょっと待って、僕は……」
「裏切り者にかける言葉なんてありませんわ!」
うつむきながら叫んだ、精いっぱいの思い。
僕には西園寺の叫び声が痛々しいものに感じたんだ。
西園寺は自分の怒鳴り声でハッと我に返り、口元を手で覆った。
「ごめん、西園寺」
「いいえ、わたくしが愚かでしたわ。謝るのはわたくしの方ですわ」
キッパリとそう告げ、西園寺はテーブルの上にあった諸々をカバンに詰めた。それからバタバタと慌ただしくリビングを後にしようとする。
「待って、西園寺、どこに行くの」
「今日は体調が優れませんの。もうお暇させていただきますわ。初美にもそう言っておいてくださいまし。では、ごきげんよう」
玄関へと遠ざかる聞こえる靴音、そしてドアが閉まる音。僕はソファの上でうつむきながら動けずにいた。
僕は西園寺を追いかけることが……どうしてもできなかった。