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「そうだね、あたしもお腹すいた。いただきます!」
続いて、瞳、玉井、初美とカレーを口にする。
おいしくできてるかな。なんたってまず仲良くなるには胃袋を掴むところから始めないと、って言うじゃないか。
「おいしい……」
口元に手を当て、西園寺が目を丸くした。
「本当だ。ちゃんとうまいじゃないか」
玉井さん、ちゃんとうまいってどういうことですか。もしかして僕がゲテモノでも作ると思ってたの?
なんだかんだ和やかな雰囲気の中、大量に作っていたカレーはすっかり僕たちの胃袋におさまった。
主に玉井と初美の胃袋におさまったんだけど。しまいには大食いレース的な展開になってたよね。
「なっちゃん先輩、結構いける口なんだね~! 初美、見なおしたよ!」
「あれくらい、まだまだだ。それより初美もなかなかやるじゃないか」
お腹が満たされ、すっかりみんな上機嫌だ。交戦中だった玉井と初美ですら、仲睦まじくメールアドレス交換なんてしちゃってる。
カレーライスさん、本当にありがとう。インドのみなさん、カレーは平和に役立ってます!
しかし、平穏な時間は長くは続かなかった……。安堵の吐息を漏らした瞬間、敵は背後から急襲をしかけてきたんだ。
「えと、あたし、クッキー作ってきたんだ。みんなでお茶でもどうかな?」
ズガンと頭に弾丸が直撃した気分だった。
「そうですわね、食後に甘いものが欲しいと思っていたところですの」
「クッキー? わぁいわぁい!」
さよなら……平穏な時間よ。意外と短かったね。
喜ぶ西園寺と初美とは対照的に、玉井はガタガタとおびえた様子だ。玉井だけがまさに世界の終わりを目の当たりにしているって感じだ。
「優人くん、お茶入れるね。キッチン、借りてもいいかな?」
天使のような微笑み。だけど、僕には悪魔……いや、魔王の微笑みにしか見えない。
「あ……や、僕がお茶入れるよ。クッキーもらえるかな。せっかく作ってくれたんだし、かわいいお皿に入れたほうがいいよ」
「本当? じゃあお願いしようかな!」
瞳はピンク色の包み紙を僕に手渡した。この中には、地獄への片道切符が入っている……。
僕は一体何をしようとしているんだ? みんなを助ける……そう、助けなきゃいけないんだ。
膝から崩れ落ちそうな体に鞭打ち、僕は食器棚からとっておきの皿を出す。小さな天使が描かれた皿。僕はそこにクッキーを並べた。
「いやあ、本当においしそうだなあ……」
玉井が僕の言葉を聞きつけて、眉をひそめた。
「おいしそう……だな!」
決めた。覚悟を決めた。みんなの未来を守るために。
「おい! 何してるんだ!」
玉井、止めても無駄だよ……。
僕は皿を掴むと、ザラザラとクッキーを口の中に流しこんだ。
しっかりしろ、と僕を呼ぶ声が彼方から聞こえる。うん、分かってる。でもこうする以外、みんなを助ける方法はなかったんだよ。
ニンニクと納豆とネギ……僕の舌が感じたのはそこまでだった。