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「空手同好会の合宿スケジュールを決めにきたのですけれど。お邪魔でしたら、わたくし、今日はお暇させていただきますわよ」
「邪魔なんてことないよ。よかったらご飯食べていきなよ。カレー、作りすぎちゃったから」
初美が西園寺を引きとめるより早く、僕は西園寺に声をかけていた。
西園寺は驚いたように僕を見る。昼食の誘いを受けるなんて予想していなかったんだろう。初美も……お兄ちゃん、何事か! といった表情だ。
「ごみ虫ごときが作ったもの……わたくしの口に合うとは思えませんが、いいでしょう。いただきますわ」
人がわざわざ作ったものをいただくっていうのにこの高飛車な態度。でもこれが西園寺なんだ。
だからこそ、西園寺がこそ泥じみたことをしたことがいまだに信じられない。
西園寺はちょこんとローテーブルの前に正座すると、僕たちをにらみつけた。
「誘ったのはあなたでしょ。早く昼食になさい」
僕はあたふたとキッチンに戻った。そして他の三人も急いでテーブルの前に集合する。西園寺の態度は有無を言わせない圧力があった。
その時だった。キュゥゥゥゥゥ……チワワが飼い主に上目づかいで懇願する時のような音がした。
今のは……お腹の音?
おおかた初美が犯人じゃないかと目星をつける。常にテンションマックスの初美はいくら食べてもすぐにカロリーを消費しちゃうんだ。
「おまたせ、おかわりもあるからね。ほら、初美、手伝って」
僕はドライカレーとポーチドエッグのサラダ、麦茶のポットを載せたプレートをリビングへと運んだ。
なんで初美だけ手伝いなの~、と不服そうな初美。テーブルで待機している三人のもとへ行き、順番に皿を並べた。
西園寺の前にカレー皿を置いた時、僕はあることに気がついた。
あれ……西園寺の顔が、赤い。サラダに盛り付けてある完熟トマト以上に赤い。
もしや、さっきのお腹の音は西園寺だったの? 妙に威圧感たっぷりで誘いを受けたのも、ただ単にお腹がすいていただけなんじゃ……。
西園寺は僕の疑惑のこもった視線に敏感に反応した。しどろもどろになりながらも、偉そうな態度は崩さない。
「わ……わたくし、今日は忙しくて朝から何も食べていませんのよ! 仕方ないでしょう!」
別に僕は悪いだなんて言ってないのに。むしろ、なんだか微笑ましくさえ感じるよ。
「と、とにかく! いただきましょう! いただきます!」
西園寺はそういうと、光の速さのごとく、スプーンをカレーに滑りこませた。