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愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
過去! 【八月六日 火曜日】
58/100

11

 *****


「優人くんのお家、久しぶりだな~。あ、なっちゃん、ここが優人くんのお家だよ!」


 底抜けの明るい声で、瞳が僕の家を指さした。玉井はフンっと鼻を鳴らし、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


 そういえば玉井は僕の家に不法侵入した過去があったっけ。瞳に言われるまでもなく、僕の家のことは知っているはずだ。ついでに屈辱的な扱いを受けてしまったことでも思い出しているのかな。あれは不可抗力だよ。


「とにかく、どうぞ入って。昼食くらいならすぐ用意するよ」


 僕は二人を家に招きいれ、リビングに二人を案内した。

 家には誰もいなかった。空手教室を営んでいる両親は、家から離れた場所にある道場の方にいるはずだ。

 初美は……どこに行ったんだろう? なんにせよ、初美がいないのは好都合。こっちには初美の天敵、玉井がいるんだから。


「ん~、昼食、どうしようかな」


 冷蔵庫を開けて隅々まで中を確認。にんじんとミンチ肉発見。確か、ベランダに玉ねぎとじゃがいもがあったはず。調味料の引き出しを開けるとカレー粉があった。よし、ドライカレーでも作ろうかな。


「優人くん、何か言ってくれたら手伝うよ!」

「いや! いい! 大丈夫! 瞳はお客さんなんだからリラックスしてテレビでも見ててよ」

「お客さん……そっか、そうだね。じゃあお言葉に甘えちゃおうかな、ふふふ」


 半分はおもてなしの精神。もう半分は防衛本能。瞳に料理の手伝いなんか任せたら……考えるだけで身の毛がよだつ。


 瞳は鼻歌を歌いながら、リビングのソファに腰かけた。

 玉井は僕の許可なく、すでにまったりくつろぎ中。ローテーブルに置いてあったファッション誌をパラパラとめくっている。たぶん初美が読んでいたものだ。


 カウンター越しに二人の姿をチラチラと見ながら、僕は包丁を手に取った。

 野菜を切って、ミンチ肉と一緒に炒める。あとはケチャッブ、ウスターソースを回しかけて、最後にカレー粉を加えて炒めるだけ。

 あっという間に簡単ドライカレーの出来上がり。二人の好みが分からないから、ちょっと甘めの味付け。ちなみに僕は辛口が好きだよ。

 最後にポーチドエッグのサラダでも作っちゃおうかな、なんて思いながら水の張った鍋を火にかけようとした時、玄関の方で物音がした。鍵が開く音だ。


「あれ~。お兄ちゃん、お友達~?」

「は……!」


 初美ちゃん、もう帰ってきたの⁉

 出かけたら夕食まで帰ってこないくせに! こんな日に限って早く帰ってくるなんて。


「ん、いい匂い。お兄ちゃん、何作って……」


 ピシリ、空気が凍りつく音が聞こえた。本当に緊迫した時って聞こえるものなんだね。

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