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僕と玉井はハッと目配せした。忘れてた……瞳の特製クッキーの存在を!
明らかに玉井の顔から血の気が失せた。おまけに小刻みに震えているくらいだ。よっぽど瞳の料理に恐怖しているんだろう。玉井は僕に何か言いたげだ。
お前が何とかしろ、って思ってるんだと思う、たぶん。
「今日のクッキーにはね、隠し味が入ってるんだよ! 二人とも何かわかるかな~?」
わかりたくないです、勘弁してください。
無言で息をひそめている僕たちに、瞳はさらに追い打ちをかける。
「あ、ご飯がいいのかな。簡単なものなら作れるよ! 用意するね!」
普通女子に言われたらグッとくるセリフのはずなのに……違う意味でグッとくる。なんていうか、生命の危険?
「な、なあ、お前の家、今日は空いてないのか? 瞳も私も、お前のことを家に招待しただろ……ほら、今度はお前の番だ! ついでに昼飯も作ったらどうだ、そうだ、そうしよう!」
どさくさに紛れてなんてこと言ってるんですか、玉井さん!
「こいつの家でお茶するときにクッキー食べるっていうのはどうだろう。そうだ、そうしよう、瞳!」
玉井はプルプルとわなないている。これほどまでに挙動不審な人は見たことないよ、僕は。
瞳はそれいいね~と言いながら、のほほんと立ち上がり、クッキーを入れる包み紙を探しにいってしまった。
君たち、どうしていつも勝手なの⁉︎
初美は今日、家にいるんだろうか……もし玉井と鉢合わせでもしたら、前回の二の舞だ。
いや、それよりも瞳のクッキーが我が家にくる、ということの方が恐ろしい! これはクッキーテロだ……。家に爆弾入りの郵便物が届く以上に危険なんだ、瞳の作ったものを家に入れるのは!
「早く行くぞ。時間は貴重なんだから」
玉井が僕の腕を掴み、無理矢理僕を立ち上がらせる。ちょうどクッキーを包装し終えた瞳が満面の笑顔でキッチンから出てきた。諦めるしかないのかな。
僕は過去視から覚めきっていない体を引きずりながら、ヘラリと力なく笑った。