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「ひ、瞳~~~!」
なんだなんだなんだ⁉ いま大事なところなんだよ~!
「なんだよ、玉……って、おいおいおい~っ!」
僕たちに向かって、玉井が全速力で走ってくる。そして玉井がいたはずの方向には書棚が……ない。何もない!
そこに広がっているのは真っ黒な暗闇。玉井の真後ろから、がれきが崩れていくかのように図書館自体が崩壊していた。ハッとして自分の足元を見ると、床に亀裂が入っている。
「瞳も! 後ろを見ろ!」
玉井はわめきながら書棚とは逆の窓際を指さす。同じように、窓際からも図書館が崩れ去っていて、ぽっかりと闇が口を開けていた。
「ど、どうなってるんだ⁉」
僕は瞳の肩を揺さぶった。瞳の顔は真っ青だ。
「ゆ……優人くん。まさか……図書館で寝てたのっ⁉」
「へ?」
瞳が珍しく僕を怒鳴りつけた。しかも涙目で。
「なんだって⁉ お前なあ!」
玉井は右手で僕の胸ぐらを掴み、空いた左手で僕の頬をつねった。
……記憶になかった。ということは気づかないうちに寝落ちしてしまっていたのか……そうとしか考えられない。
恐ろしい形相で僕に食いかかる二人を前に、とりあえずすっとぼけてみる。いやあ……寝てるはずないんだけどなあ。
「……記憶にございません」
「ほんっと、お前は使えないな!」
「眠りはすべての意識を遮断するの。ここが崩れてきてるってことは、この先の記憶がないってことだよ! 記憶がなければ、あたしたち、ここにはいられない!」
すいません。僕は心の中で土下座した。過去の僕、決定的瞬間まで耐えてくださいっ!
だけど、図書館の崩壊は僕たちの都合なんか聞いてくれない。図書館は僕たちの周囲からどんどんと崩れていった。
真っ暗闇の中に、受付だけがぽっかりと浮かんでいる感じだ。そういえば、受付に向かっていた西園寺はどうなったんだ?
歩み寄ってくる西園寺の足元の床にも亀裂が走っていた。後ろから床の崩壊が迫っている。
僕たち三人と西園寺以外は崩落に巻き込まれ、暗闇の中に消えていってしまった。