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愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
過去! 【八月六日 火曜日】
52/100

5

 *****


「優人くん、大丈夫?」


 僕はゆっくりと目を開けた。体が浮遊しているような感覚。


「たぶん……大丈夫」


 焦点が定まってきたのはいいけど、目の前はクリーム色一色。瞳の声がしたはずなのに、どこにも瞳の姿が見えない。それにしてもいったい何だろう……僕はペタペタとそれに触れた。


「寝ぼけてるのか。そんなところ触ってどうすんだ」


 僕は振り返り、玉井に反論しようと口を開く。寝ぼけてなんか……。


「えええええ⁉」


 浮いてる! 僕の体が浮いてる! 

 玉井の全身が視界に入った。そしてその向こうには見慣れた図書館の茶色い床が広がっている。謎のクリーム色は図書館の天井だったみたい。


「大丈夫だよ、本当に飛んでるわけじゃないよ。あたしが見ている過去を、精神感応で優人くんとなっちゃんにも見せてるだけだから」


 瞳は受付カウンターの側で僕と玉井を見あげていた。瞳の元へ行こうと体をばたつかせたが、僕の手足は犬かきをする犬のように、むなしく宙を切った。思うように体が動かない。


「何やってるんだ。ほら、瞳のところへ行くぞ」


 玉井が僕の手を取り、音もなく地面へと降りていく。トン、と床に足が着いたけど、足が地についているという感触がまったくない。

 無重力の世界ってこんな感じなのかな。視覚的に天井と床がはっきりしている分、まだましだ。上下左右のない宇宙空間だと、きっとすぐに気分が悪くなってしまうに違いない。


「無理に進もうとするんじゃなくて、行きたい場所を思い描くだけで動けるよ。ただし、図書館の外に出ることはできないわ」


 受付カウンターには花野がいた。花野に意識を集中すると、瞳が言った通り、僕の体は自然と花野の側へと移動していた。


「花野」


 僕は花野に声をかける。これは僕の記憶の中にいる過去の花野だ。

 もちろん花野は僕の呼びかけに応じることなく、黙々と本の整理を続けている。時折手で顔をあおいで、風を送っていた。

 空調設備の不調で窓は全開にしてあった。でも、あまり涼しい風がはいってこなかったんだっけ。


「花野さん、カーディガン着てるね。空調、壊れてたんでしょ? よく我慢できるな~」


 瞳がのんきな声で感心する。


「確か、花野がカーディガンを脱いだ後に懐中時計が盗まれるはずなんだ。まだ懐中時計は花野の手元にあるってことかな」

「結構図書館って人、入ってるんだな。もっとガラッとしてるのかと思った」


 玉井が図書館を見渡す。

 そう言われてみると、確かに思っていた以上に人がいた。ざっと十数人ってところ。読書している子よりも自習している子の方が多いみたいだ。高等部の学生だけではなく、中等部の制服を着た学生もちらほら。


「とりあえず、私、書棚の方を調べてくる」

「うん、なっちゃん、お願いね」


 玉井はスーッとすべるように離れていった。瞳は受付カウンターの中に入り、机の下やらごみ箱の中やらをあさっている。


「花野さんがカーディガンを脱ぐまで、まだ時間あるのかな。優人くんは何かこの日、気づかなかった? いつも図書館に来てない人がいたとか」

「あまり他のやつを気にしたことないんだ。いつも誰が来ているのかもわからないよ」

「そっか、そうだよね……」

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