表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
過去! 【八月六日 火曜日】
50/100

3

「おかわりあるからね、たっぷり食べてね!」

「う……」

「あ……」


 再び、白河邸の客間に通された僕たちの前に……恐ろしい光景が広がっていた。


「お父さんに、あたしの作ったクッキーも焼いておいてね、って頼んでおいたの。ちょうど今、焼きあがったところだって!」


 焼き加減は問題なさそうだ。なんたってお菓子作りの得意な親父さんが焼いたんだから。

 問題は瞳が作ったクッキー生地そのものの味だよね。


「さ、さっきクッキーたくさん食べちゃったから、今はいいよ。先に話を済まそう、今後のことについて」


 グッジョブ、玉井! 僕もうんうんとうなずき、玉井に便乗する。

 瞳はそっか、そうだよね~と言いながらクッキーの器を下げた。このままどさくさに紛れて、クッキーのことを忘れてくれたらいいんだけど。

 瞳はコホン、とわざとらしく咳払いをした。


「それじゃあ、懐中時計を見つけ出して、持ち主に返そう作戦スタートッ!」


 瞳は威勢よく右手を振りあげ、オ~ッと意気込んだ。玉井は机に肘をつきながら、ため息をひとつ。


「威勢いいのはいいんだけどさ。どうするんだ? いつもと順序がめちゃくちゃだけど」

「順序?」


 玉井はそのままの姿勢で、首だけを動かす。難しそうな目で僕を一瞥した。


「そう、普段は瞳が絵馬から過去を見るんだ。持ち主の記憶や、どういった経緯でそれが消えてしまったのか……絵馬からいろいろな情報を透視する。だけど、今回は花野さんの過去を見ることはできない。花野さん自身が絵馬を書いてないからな」

「花野さんが触ったものだとか、あるいは直接花野さんに触れることができたら、過去を見ることができるんだけどなあ」

「じゃあ花野に触って過去を見ればいいじゃない」


 パンがないならお菓子を食べればいいじゃない。

 マリー・アントワネットもびっくりな、そんな気軽な気持ちで口にした言葉。どうやらそれが二人の反感を買ったみたい。

 しれっと言いはなった僕に、玉井は盛大に舌打ちした。


「そもそも私たちは花野さんと面識がないっての。懐中時計の話はお前にしかしてないんだろ? その話をしに行くわけにもいかないし。それに夏休み明けまで学校に来ないんじゃあ、触れようもない。お前がもう来ないって言ったんじゃないか」


 確かに……瞳は花野と同じクラスになったことはなかった。玉井に至っては花野の存在すら知らなかったはずだ。それに花野はしばらく病院通いで、学校には顔を出さないんだっけ。


 つい二人の能力があれば何でもできるような気になってしまっていたけれど、その能力には限界っていうものがあるわけで。僕は完全にそのことを失念していた。

 花野になんとか近づいて瞳を接触させるしか方法はないのかな? あるいは懐中時計が盗まれた日、花野以外で図書館にいた人は……?


「――僕だ」


 ボソッとつぶやいた僕を、玉井は不審者をみるような目つきで見すえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ