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学校から十分ほど歩くと、僕たちの寄り道ポイント、甘味処辻屋が見えてくる。
「優人くん、食欲ないんじゃなかった? 寄り道なんてして大丈夫なの?」
「ああ、うん、全然。さっきのマフィンのせいで食欲出てきたっていうか……ねっ」
ちゃんとおいしいもので口直ししないと、きっと家に着く前に倒れる。気を失う。
辻屋の店先では、坊主頭にタオルを巻き付け、汗だくになりながら大判焼きを焼いている要さんの姿があった。この暑い季節、焼き立ての大判焼きなんか買っていく人なんかいるのかな……と思うけど、この店の大判焼きは季節問わず、一番人気商品だ。
「要さん、こんにちは~!」
無口な要さんは瞳に会釈し、すぐさま視線を鉄板に戻した。これぞダンディズム。言葉で語らなくても背中が語るってやつだね。見えてるのは背中じゃなくて坊主頭だけど。
瞳はアルミの引き戸を開け、店の中に入る。一番奥の、テレビが一番近い席が僕たちの指定席だ。僕たちは向かいあわせに座った。
夕食の時間が近いせいか、店内にいる客は僕たちだけだ。普段はもっと人が多くて、並ばないと入れない時もある。
台所から、髪を後ろにきゅっと束ねた、白髪の上品な老婦人が出てきた。着物姿に割烹着がよく似合っている。この人は夕子ばあちゃん、辻屋の店長だ。
「あら、瞳ちゃん、優人くん、いらっしゃい。今日は何にするんだい?」
「あたし、抹茶のかき氷! トッピング大盛りで!」
「僕は白玉ぜんざいで」
注文を聞くと、夕子ばあちゃんは平安貴族もかくや、という優雅な笑みを浮かべ、再び奥の台所へ引っこんでいった。
瞳はというと、かき氷にチーズと青汁をかけたらきっとおいしいと思うんだあ……なんてわけのわからないことをひっきりなしに呟いている。僕には何も聞こえない、聞こえません。
お茶を飲みながら待つこと数分、すぐにかき氷とぜんざいは運ばれてきた。
「いっただきま~す!」
大口開けてぜんざいにありつこうとしたその時、ガラリと店の扉が開いた。
そこに立っていたのは一人の女の子。両手にはスーパーの袋を抱えている。買い物帰りにお茶しにきたお客さんかな、一人でおつかいなんてえらいなあ。将来きっといいお嫁さんになるね、僕が保証する。
僕は気を取りなおして、ぜんざいの器を手にした。暑い季節に食べる、あつあつのぜんざいがおいしいんだ。言っても誰にも理解してもらえないけど。
ぜんざいについて熱弁しようと、僕は顔を上げた。でも、瞳の熱いまなざしは大盛りあずきと白玉たっぷりの抹茶かき氷ではなく、戸口に立つ女の子に注がれていた。
「なっちゃん!」
瞳は勢いよく立ちあがると、女の子へと駆けよった。