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愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
過去! 【八月六日 火曜日】
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2

「僕は……さなちゃんが喜ぶ顔を見た時、うれしかったんだ。でも……瞳と玉井がしていることに協力しようとまでは思わなかったんだ」


 手段はどうあれ、二人は人を幸せにしている。それはよくわかった。

 ただ、あの時感じたのは、さなちゃんが喜んでくれてうれしいという気持ち、それだけだった。


「でも花野に話を聞いて、花野の顔を見て、気づいたんだ。なんて辛そうな顔してるんだよって。花野だけじゃない、さなちゃんだって、今までここにお参りしに来た人たちだってみんな……あんな顔してたんだろうなって」


 大切で大切で仕方なかったのに。

 彼らはみんな、その大切なものを失ってしまったんだ。願いを込めれば叶うと信じて、絵馬に願いを託して。


 神様なんて信じない……そう思っている僕には花野の姿は痛々しいとともに、まぶしく映った。そこまで何かのために信じられることが羨ましかった。できることなら、叶えてあげたい。

 信じることは無駄じゃないって、花野に教わった気がしたから。それがたとえ茶番だったとしても。


「例外は……認められないわ」


 瞳はゆっくりと、諭すように言った。

 瞳は、次期《黒猫》である玉井とは立場が違う。なんたって現白河家当主《白犬》だ。

 そういうことには厳しいんじゃないかって……思ってたんだ。やっぱりね。


「でも協力者は必要だと思ってるの。要さんだって、あたしのお父さんだって……白河家と玉井家の力を知ったうえで協力してくれてるわ」

「瞳、でも……!」


 瞳は右手をあげて玉井の言葉を押しとどめた。


「わかってる。決まりごとは守らなくちゃいけないってこと。絵馬に願い事を書いた人の願いだけを聞く……あたしたちはそれを守ってきた」

「それじゃあ……!」

「優人くん、花野さんの願いは叶えてあげられない。だけど……協力者になってくれるなら、優人くんの願いは叶えてあげられるかもしれないわ」

「それってどういう? ……っ!」


 僕は転げるように瞳の家を飛びだす。

 神社に続く細い小道を抜け、境内まで一気に駆けぬけた。

 絵馬掛所の机の上には、絵馬が無造作に並べてあった。横の小箱には「絵馬 三百円」と書かれた張り紙。僕はズボンのポケットから財布を出し、机に小銭を全部ぶちまけた。

 百円玉二枚、十円玉三枚、五円玉一枚、一円玉四枚……そして五百円玉一枚。

 そ……そんな! よりによって三百円! 絵馬が一枚三百円!

 僕は白金色に輝く五百円玉を空にかざした。こんなに五百円玉が神々しく感じたのは生まれて初めてだよ!


「う~~~! 仕方ない!」


 僕は小箱に五百円玉を投入した。

 釣りはいらないよ。一度言ってみたいと思ってたけど、まさかこんなところで……返事をしてくれない小箱の前で思う羽目になるなんて。


 僕は絵馬を一枚、乱暴につかんだ。近くのペン立てに立てかけてあったサインペンも一緒に。

 キュポンとペンの蓋を取り、絵馬に願い事を書きなぐった。


『花野の失くしものが見つかりますように 優人』


「優人くんの願い、確かに聞きいれました」

「まったく……私の足だけは引っ張るなよ」


 気づけば僕の後ろに瞳と玉井が立っていた。ご満悦の表情を浮かべる瞳と、呆れ顔の玉井。

 今日から僕は……共犯者になるんだ。


「玉井こそ、僕の足を引っ張らないでね」


 僕は二人の目を見つめて、クスッと笑った。

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