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愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
過去! 【八月六日 火曜日】
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1

 僕は玉井に散々ののしられていた。それはもう足蹴にされんばかりの勢いで。その隣で、瞳が懸命に玉井をなだめる。


「で、共犯者になる代わりに、私たちに条件をつきつけてきたってわけだ。呆れた」

「なっちゃん、まあまあ。落ち着いて」


 決断の日、僕は瞳の家に招かれた。そして……僕は二人にある条件をつきつけた。

 二人の盾となって協力する代わりに、花野の願いを叶えてあげてほしいってね。昨日花野から聞いた話をそっくりそのまま二人に説明したんだ。

 条件なんか知ったこっちゃない、って言われたらそれまでだ。僕の記憶はきれいさっぱり消されて、はいさようなら……ジ・エンド。


 だけど、瞳はわざわざ僕に二つの選択肢を与えた。それは喉から手が出るほど協力者が欲しいってことの表れだと思うんだ。その隙に付けこまない手はない。ほら、世の中ギブアンドテイクって言うじゃないか。


「僕の条件を受けいれてくれたら、僕のことを好きにしていいよ」


 煮るなり焼くなり、あんなことやこんなことをするなり……もう僕は君たち二人の奴隷だよ。


「よくもそんな気持ちの悪いセリフを……」


 玉井の腕には鳥肌が立っていた。大根おろしだってすれちゃいそう。この部屋、ちょっとクーラーききすぎてるんじゃないかな?


「瞳~。入るよ」

「あ、は~い!」


 襖の向こうから瞳の親父さんの声がした。

 瞳の返事を聞き、和室に入ってきた親父さんの手には、アイスティーと焼き立てのクッキーの入った器。

 瞳が作ったクッキーじゃないですよね、食べても死んじゃったりしませんよね?


「優人くん、那智ちゃん、いらっしゃい。二人が来るって聞いたから、張りきってクッキー焼いたんだよ」


 セーフ! 瞳の作ったクッキーじゃなくてよかった!

 親父さんは桐の机の上にそれらを置いた後、にこにこしながら腰を落ち着かせた。


「あ、ありがとうございます」

「おじさま、ありがとうございます」

「ところで、小説のネタになりそうな話、ないかな? 優人くんも那智ちゃんも面白いネタがあったらどんどんおじさんに話してくれよ!」


 親父さんは舌をペロリと出しながらウインクした。星マークがこぼれんばかりの笑顔……白い歯がキラリと光った。


「もう! お父さんは邪魔だから早く出てってよ~!」

「え、いや、ネタを~~~!」


 瞳に押しのけられ、親父さんは名残惜しそうに和室から出ていった。


 ちなみに親父さんは白河神社の神主兼小説家。瞳のお母さんが早くに亡くなった後、男手一つで瞳を育て上げたたくましい人だ。

 親父さん曰く、神主業だけではもうからないから、知り合いの出版社に頼んで細々と小説を書いているんだって。いつも顔を合わせるたびに小説のネタを求めてくる。


 玉井はすかさず山盛りクッキーののった器に手を伸ばし、親父さん特製クッキーを次々とむさぼり始めた。


「お前……んぐんぐ……自分の立場……んぐんぐ……わかってるのか」


 玉井の罵詈雑言はとどまることを知らない。

 必死の形相でクッキーを食べている玉井が言うと、いまいち説得力に欠けるように感じるのは僕だけ? おじさま腕をあげたんだな、さすがだ、と時折クッキーの感想をつぶやきながら僕に説教を続ける。


「そんな条件、受け入れられるわけないだろ。そんなこと言っていたら、誰かれかまわず願いを聞いてやらなきゃいけなくなるからな」


 それもごもっともです。

 そうやって厳格に規律を守ることで、二人とも……いや、ご先祖様たちは秘密を守ってきたんだろうから。


「それに、やけに花野ってやつに肩入れするんだな。どうしてそいつにそこまでしてやるんだ」


 玉井が僕をにらみつける。瞳と僕をくっつけたがっていた玉井にとって、花野の出現は面白くないかもしれない。

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