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愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
親睦! 【八月四日 日曜日】
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8

「優人くんを脅したあたしが言えることじゃないけど、巻きこんじゃって本当にごめんね」


 そうだよ、巻きこまれた僕の身にもなってよ……。本当はそう思ってるんだけど、言えないよね。

 だからって、大丈夫だよって言えるほど、僕の頭の中もすっきり整理できているわけじゃなかった。何て答えたらいいんだろう?

 僕は口をつぐむしかなかった。


「昨日、お疲れ様。あのね……ありがとうね」

「いや、いいよ。僕は結局何の力にもなれなかったんだし」

「ううん、そうじゃないの」


 何がそうじゃないの? 僕は首をかしげる。


「なっちゃんね、ずっと迷ってたんだ。たぶん、この仕事について。あたしたちがやっていることに意味なんてあるのかって」


 昨日の玉井を思い出す。やってることは泥棒だ、胸を張れることじゃない……そう言ってたっけ。


「あたしだって悩んだよ。でも悩んでもしょうがないから……あたしは悩むこと自体をやめた。なっちゃんはずっと悩んでたみたいだけど。手段はどうであれ……あたしたちがやったことで喜んでくれる人がいるんだもん」

「……うん」

「なっちゃんと何を話したのかは知らないけどね、昨日のなっちゃんは……どこか吹っ切れたみたいだったの。きっと、優人くんがなっちゃんに何か言ってくれたんでしょ?」


 言った……言ったけど。玉井と瞳の存在を根底からひっくり返すようなこと。玉井は笑っていたけど、同じことを言って瞳が笑ってくれるとは限らない。もしかしたら、昨日の玉井とのやり取りを聞いて、怒ったりするかも……。


「え、あ……仕事のこと、悩んでたから。神様黒猫じゃなくて、怪盗黒猫でいいじゃないかって……」


 あ~、言っちゃった。でもあの時の僕は本当にそう思ったんだ。

 怪盗黒猫か……と瞳はぶつぶつと繰りかえしている。お気に召さなかったでしょうか?


「うん、いいね、怪盗。うん……かっこいいや」


 瞳は空になったグラスを傾け、小さく微笑んだ。


「あたしも怪盗白犬って呼んでよ。かっこいい?」


 瞳は大きな茶色い瞳で、僕の顔を覗き込んだ。僕の頬は、瞳の言葉に熱くなる……ちょっとだけ。


「はいはいはい、いい感じのところ邪魔して悪いな。ドリンク持ってきたよっと」


 グッドタイミングというべきか、バッドタイミングというべきか。玉井は両手で三人分のグラスを抱えながら帰ってきた。

 コップになみなみ注いだせいか、玉井の手首のあたりはこぼれたドリンクでびしょ濡れだった。


「なっちゃん、こぼしてるよ~、ほら、おしぼりで拭いて。呼んでくれたら手伝ったのに~」

「邪魔するわけにいかないだろ。そんな無粋なことできない」


 うん、今すっごくいいところだったのに、思いっきり割りこんできたからね。もうちょっと待ってくれたらよかったのに。

 瞳はおしぼりで玉井の手首を拭いてあげていた。瞳が袖口に気を取られている隙に、玉井は僕の顔を見ながらにやけた笑いを浮かべていた。二人きりにしてやったんだ、感謝しろ、とでも言いたげな表情だ。

 わかったわかった、感謝してます、大いにしてますとも。とりあえずそのにやけ顔はやめようか。


「ほら、なっちゃん、きれいになったよ!」


 瞳はおしぼり片手に満足げだ。それから、瞳はアイスティーのグラスを引きよせ、ポーションタイプのレモンを注いだ。


「ねえ、これ飲み終わったら、優人くんの服、見にいこうよ」

「え、僕の服?」

「だって優人くん、今日は荷物持ちしてるだけじゃない。別に服じゃなくてもいいんだよ。優人くんの買い物にも付き合う!」

「そうだな、手短に済ませてくれるなら付き合ってやってもいい」


 玉井は持ってきたばかりの烏龍茶を一気飲みした。


「ほら、あんたも一気飲みして。さっさと行くぞ」

「無茶ぶりするな!」


 コーラの一気飲みなんて……芸人さんじゃあるまいし、僕にはできないよ! 玉井も、人の妹のこと言えないって。

 飛びだしそうになったその言葉。僕はそれをコーラと一緒に無理やり飲みほした。


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