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愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
親睦! 【八月四日 日曜日】
39/100

7

 *****


「玉井は将来、大食い番組に出ればいいと思うな」


 僕は目の前の空き皿と店員がおいて行った伝票とを交互に見ながら言った。

 玉井は特大ハンバーグにから揚げ、シーザサラダ、フライドポテトの大盛り、野菜たっぷりコンソメスープ、そしてデザートにパンナコッタとイチゴのパンケーキ、さらにチョコレートパフェをぺろりと平らげ、満足げに腹をさすっている。

 玉井のカーディガンのボタンはお腹のところではち切れそうになっていた。一方の瞳はというと、サンドイッチとサラダでランチを済ませ、優雅に紅茶を口にしている。細身のジーンズにノースリーブの青いニットセーター姿の瞳の体型は一ミリたりともたるみがない。


「食べた分だけしっかり動くんだからいいじゃないか。あんたの妹がしでかしたことを考えると、これくらいじゃ食べ足りないくらいだ」


 この食事量はそういう問題じゃない気がする。本当にいつもこんな量を食べてるのかな? 僕に反省させたいなら、こんなに食べなくてもいいよ。もう十分反省してる。

 ……って、僕は何も悪いことしてないんだけどね。


「スカート、はち切れても知らないよ」

「いいんだ、今日はウエストがゴムのスカートだから」


 そういう風に油断してたら、将来本気でやばい体型になっちゃうぞ! 僕は心の中で叫んだ。


「もうこれ以上食べるなんて言わないよ。心配するな」


 ……帰りのバス代くらいはなんとか確保できそう。僕はもう一度財布の中身を見て、そっとポケットに財布をしまった。もう財布は見ないでおこう。なんだか切なくて、苦しくて、悲しくなるから。


「みんな、ドリンクなくなってる。取ってきてやるよ、何がいい?」


 玉井が空になったグラスをカラカラと振った。グラスについた水滴が飛び散った。


「あたし、アイスティー。レモンがいいな」

「僕はコーラ。ありがとう」

「あんたのを取りに行ってやるなんて一言も言ってない」


 僕は自分で取りに行けってことですか。はいはい、わかりました、虐げられてかわいそうな僕……。


「嘘だよ。あんたはそこで瞳と待ってなよ」


 玉井は肩を揺らしながら、クククと笑った。そして、立ちあがりかけた僕を制し、ドリンクコーナーへと小走りに駆けていった。僕は瞳と二人きり。


「なっちゃんってさ、あたしたちのこと誤解してるのかな。今も、もしかして気を使ってくれたのかもしれないね」


 瞳は眉を八の字にして笑った。

 初めて玉井に会った時も、僕と瞳は付き合ってるのか云々……と言っていたのを思い出す。瞳の推測はあながち間違っていないかもしれない。


「かもしれないね」

「あたしは別にいいんだけどね」

「ふぇ⁉」


 瞳の思わせぶりな態度に胸をときめかせる僕。これってもしかして、期待しちゃってもいい展開ですか!


「冗談だよ」


 天から地へ一気に叩き落された気分だ。僕はあからさまにがっかりとしてみせた。僕のときめきを返してください。


「ごめんごめん、まさか優人くんがそんなに喜んでくれるなんて思わなかったから」


 瞳は口元を手で覆い、クスクスと笑った。でも……瞳はすぐに顔を曇らせてしまう。

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