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おおっ……お嬢様!ナイスでございます!
「部長っ……!」
「あなたに勝ち目はありませんことよ、初美。それにほかのお客様のご迷惑になっているでしょう?」
西園寺が周囲の人だかりを指さした。初美はハッとしたように目を見開くと、そのままバツが悪そうにうつむいてしまった。
「皆様、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたわ。お買い物にお戻りくださいませ」
西園寺は腰に両手をあて、高らかに言い放った。さすが、お嬢様、偉そうなポーズが様になってます。
西園寺はシッシッとギャラリーを追い払うと、うなだれている初美に厳しい言葉を投げかけた。
「最初の一撃で攻撃を防がれたとき、あなたは相手の力量を推しはかるべきでしたわ。あなただって弱くはないのですから。そのあなたの不意打ちをやすやすと見抜くんですもの。この方も相当の手練れということですわ」
「部長……」
論点が間違っている気がするのは僕だけ? ここは他人に迷惑かけたことをいさめるべきだと思うんだけど……ついでに言うと、僕にもかなり迷惑かかってるよ。お嬢様っていうのは往々にしてずれてるものなのかな。
「さあ、着替えて残りの買い物を済ませましょう。まだ買うものがたくさん残っているのではなくて?」
西園寺は初美の顔を覗きこみ、優しく言った。初美は涙ぐんでいるのか、手でぐいっと目のあたりをこすった。それから初美が顔を上げる。その顔に浮かんでいたのはヒマワリにも負けない、満開の笑顔だ。
「そうですね、花火も買いましょうよ! すっごくでっかいやつ!」
初美は指を折りながら、あれもこれも買わなきゃ……とまたもや張り切りモード。
切り替えの早いやつ……まあそれが初美のいいところでもあるんだけど。僕は腕を組みながらう~んとうなった。
初美と西園寺が自分たちの試着室へと帰ろうとしたその時。ああそうでしたわ、と西園寺が振りかえった。初美が暴れた後とあって、僕たちはビクッと体をこわばらせる。お手柔らかにお願いします。
「玉井さん、とおっしゃりましたか? ぜひ、どこかで一度お手合わせ願いたいものですわ。では皆様、ごきげんよう」
玉井は体を硬直させる。
本能的に西園寺は危険だと感じとったのかもしれない。西園寺に微笑みかえそうとしているけど、その顔は引きつっていた。……玉井、その笑顔はむしろ怖い!