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「あんた、お兄ちゃんの何?」
「え? な……何って?」
初美の態度は恐ろしくぶっきらぼうなものだった。玉井の何かが初美の気に障ったのか、初美は一向に打ちとける素振りを見せない。
……いくらなんでも、初めましての人によくないぞ。兄として、ここはしっかり威厳をもって注意しないと。
「はつ……」
「お兄ちゃんのお嫁さんは瞳ちゃんって決まってるの! 瞳ちゃんからお兄ちゃんを盗ろうとしたって、この初美が許さないんだからね!」
「は? ちょっと勘違いしてるんじゃないのか? 私は別に君のお兄さんのことなんて……」
「問答無用! 泥棒猫はこの初美が成敗する!」
「おい! ま、待て!」
シュッという風の音……初美が玉井に向けて右足を蹴りだしていた!
ギリギリのところで玉井が後ずさる。
「お、おい……変態! お前の妹、勘違いしてるぞ! さっさと止めろ!」
……ごめんなさい、無理です。だって初美ちゃん強いんだもん。間に入ったら僕の命が危ないくらいに。
完全に玉井を瞳の恋敵だと勘違いしている初美は、玉井に対する攻撃の手を緩めない。
今度は左手で玉井を突きにかかった。玉井はとっさに右手で初美の攻撃を受けとめる。初美の左拳は玉井の手の平にあっさり抑えこまれてしまった。
「んぐぐぐぐぐ~」
「人の話を最後まで聞かない兄妹って言われないか? 私は君のお兄さんとは何の関係もない!」
水着を着た四人組の騒ぎに周囲もざわつき始めた。しかもそのうちの二人は格闘戦を繰り広げていて、男の前で言い争っている……。
となると、考えられる結論は一つと言わんばかりに、周りの客は勝手な憶測を始めた。
「ちょっと、あの男の子、四人に手出したの?」
「浮気現場見つかって乱闘騒ぎだってよ!」
「女と見れば誰にでも手出してるのかしら。サイテー」
「うわぁ、四人ともかわいいじゃん。あいつマジ羨ましいぜ」
いや、誤解だから! 四人同時に手を出すほど僕は器用じゃないから! ハーレムは僕の夢なのは否定しないけど。
このままだと誤解が広がりかねない。なんとかして二人を止めないと……二度とこのショッピングモール、いやこの町を歩けなくなる!
集まりだした人だかりを気にもせず、初美は玉井に威勢よく怒鳴りつけた。
「瞳ちゃんの敵ぃ~!」
「くっ!」
初美が空いていた右手を振りかざす。玉井の右手は初美の攻撃を受けとめたままふさがっている。
玉井はちっと舌打ちすると、初美に反撃しようと身構えた。初美の右拳が、玉井の顔目がけて繰りだされ……。
「初美、おやめなさい」
バシッという衝撃音。西園寺が初美と玉井の間に入り、初美の右手を受けとめた。