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愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
親睦! 【八月四日 日曜日】
36/100

4

「あんた、お兄ちゃんの何?」

「え? な……何って?」


 初美の態度は恐ろしくぶっきらぼうなものだった。玉井の何かが初美の気に障ったのか、初美は一向に打ちとける素振りを見せない。

 ……いくらなんでも、初めましての人によくないぞ。兄として、ここはしっかり威厳をもって注意しないと。


「はつ……」

「お兄ちゃんのお嫁さんは瞳ちゃんって決まってるの! 瞳ちゃんからお兄ちゃんを盗ろうとしたって、この初美が許さないんだからね!」

「は? ちょっと勘違いしてるんじゃないのか? 私は別に君のお兄さんのことなんて……」

「問答無用! 泥棒猫はこの初美が成敗する!」

「おい! ま、待て!」


 シュッという風の音……初美が玉井に向けて右足を蹴りだしていた!

 ギリギリのところで玉井が後ずさる。


「お、おい……変態! お前の妹、勘違いしてるぞ! さっさと止めろ!」


 ……ごめんなさい、無理です。だって初美ちゃん強いんだもん。間に入ったら僕の命が危ないくらいに。


 完全に玉井を瞳の恋敵だと勘違いしている初美は、玉井に対する攻撃の手を緩めない。

 今度は左手で玉井を突きにかかった。玉井はとっさに右手で初美の攻撃を受けとめる。初美の左拳は玉井の手の平にあっさり抑えこまれてしまった。


「んぐぐぐぐぐ~」

「人の話を最後まで聞かない兄妹って言われないか? 私は君のお兄さんとは何の関係もない!」


 水着を着た四人組の騒ぎに周囲もざわつき始めた。しかもそのうちの二人は格闘戦を繰り広げていて、男の前で言い争っている……。

 となると、考えられる結論は一つと言わんばかりに、周りの客は勝手な憶測を始めた。


「ちょっと、あの男の子、四人に手出したの?」

「浮気現場見つかって乱闘騒ぎだってよ!」

「女と見れば誰にでも手出してるのかしら。サイテー」

「うわぁ、四人ともかわいいじゃん。あいつマジ羨ましいぜ」


 いや、誤解だから! 四人同時に手を出すほど僕は器用じゃないから! ハーレムは僕の夢なのは否定しないけど。

 このままだと誤解が広がりかねない。なんとかして二人を止めないと……二度とこのショッピングモール、いやこの町を歩けなくなる!

 集まりだした人だかりを気にもせず、初美は玉井に威勢よく怒鳴りつけた。


「瞳ちゃんの敵ぃ~!」

「くっ!」


 初美が空いていた右手を振りかざす。玉井の右手は初美の攻撃を受けとめたままふさがっている。

 玉井はちっと舌打ちすると、初美に反撃しようと身構えた。初美の右拳が、玉井の顔目がけて繰りだされ……。


「初美、おやめなさい」


 バシッという衝撃音。西園寺が初美と玉井の間に入り、初美の右手を受けとめた。

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