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瞳は白いビキニに、真っ赤なハイビスカス柄のパレオを腰に巻きつけていた。西園寺や初美ほど胸にボリュームはないけど、ほどよい大きさで均整の取れたバランスタイプ。瞳の黒髪が白い水着に映えていて、ザ・清楚を地でいっている。イチゴのショートケーキを擬人化したらこんな感じかな。
玉井は黄色のスポーツタイプのトップスにモスグリーンのキュロットの水着を着ていた。胸は……ほかの三人と並べるのが気の毒なくらい、ない。正直、ほかの三人のようにビキニを選んでいたらどうしようかと思ったけど、一応自分に似合うものがどんなものかはわかってるんだね。僕としては、赤と白の水玉ワンピースとか……玉井には小さい女の子が着ているような水着を着てほしかったんだけど。イメージは……芋けんぴ。芋けんぴ、おいしいよね。
「お前、ため息つきながら私を見るのをやめろ」
玉井は僕のみぞおちに強烈な一発を見舞った。ぐえっ……いろいろなものがリバースしちゃいそう。
「あ~、瞳ちゃんだ! やっほ~! 久しぶり!」
「初美ちゃん、奇遇だね、お買い物?」
初美が瞳に飛びかかって抱きついた。
初美も僕と一緒に、小さい頃は瞳とよく遊んでいたんだ。今でも瞳を姉のように慕っていて、瞳を見かけると我先にと駆けよっていくほどだ。
瞳に飛びつく初美を見て、西園寺は面白くなさそうな表情を浮かべた。大事な妹を盗られた気分?
でも、そこは育ちのいいお嬢様、社交界用の極上スマイルで瞳を迎え討つ。
「瞳さん、とおっしゃるのですか? 初めまして、西園寺ありすと申します。初美がいつもお世話になっているようで、わたくしとも仲良くしてくだされば嬉しいですわ」
「は……初めまして、あたし白河瞳です。えっと、優人くん――初美ちゃんのお兄さんと同級生なの。こちらこそよろしくね」
瞳はそう言って、西園寺と握手を交わした。初美の自称姉の座を狙う西園寺にまさかのライバル出現、というところかな。
「あのね、もうすぐ空手同好会の合宿があってね、部長と合宿の買いだしに来たんだ! あ、西園寺先輩は同好会の部長なの! すごく強いんだよぉ!」
初美は瞳にまで部長レジェンドを披露しにかかる。へえ~、そうなんだ~と相づちを打つ瞳。このままだと親睦会どころか部長レジェンドを聞くだけで一日が終わってしまう。
それは……かなり僕としても不本意というか。せめて荷物持ち以外のことをしてから家に帰りたい。親睦会らしいこと、したいじゃないか。
僕は初美と瞳の間に割りこみ、初美を止めにかかった。
「部長の話はまた今度にしなよ」
「あ、お兄ちゃん、そういえばいたんだっけ」
愛すべき兄の存在を忘れてしまえるとは……初美、ほんのりお兄ちゃんは悲しいぞ。
「瞳ちゃんはお兄ちゃんとデートだよね? 本当はお兄ちゃんに今日の買いだしの荷物持ちを手伝ってもらおうと思ってたんだけどね、瞳ちゃんと出かけるっていうからさ~」
「今日はあたしだけじゃなくて、もう一人、クラスメイトの女の子と一緒なの。彼女は玉井那智ちゃん。あたしのお友達だよ」
瞳は玉井の方に視線を移した。玉井と初美の目が合う。玉井は初美に向かって会釈した。その表情は少し硬かったが、玉井なりに精いっぱい好意的な態度を示したかったようだ。
「くらすめいと? おんなのこ?」
初美は食いいるように玉井を見つめた。初美の様子が……おかしい。初対面の人にも人懐っこい初美だけど、今回は違った。