表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
体験! 【八月三日 土曜日】
29/100

3

 ワイヤーが巻き取られる勢いで、僕の体もベランダに引き寄せられる。タンッと足で壁を蹴り、手すりにしがみついた。右足をなんとか壁に引っかけ、ベランダによじ登る。そぅっと、レースのカーテン越しに僕は部屋を覗きこんだ。


 白と薄いピンクを基調にした、女の子らしい部屋だ。ベッドの上には巨大なクマのぬいぐるみがある。

 ここにかわいい女の子が寝てるんだなぁと思うと僕はあのベッドにダイブしてもふもふしたくなるよ。……おっと、いけない、女の子のこととなるとついシリアスになりきれないのが僕の悪い癖。

 壁にはクレヨンで描いた絵が何枚も貼ってあった。その中の一枚に「おにいちゃん さな」と書かれた絵もある。


「ここからは座標交換の力を使う。机の上にある色鉛筆……あれと指輪の位置を入れかえる」


 黒猫の指ししめす先、机の上には赤の色鉛筆が一本。黒猫は静かにするように、と人差し指を唇に当てた。そのしぐさにちょっぴりドキドキしながら、黒猫を見守る。


座標交換リプレイス


 あの時……僕たちが出会った時と同じように、黒猫の手の平に光の粒が集まりだした。そこにある指輪の輪郭がだんだんぼやけてくる。

 こんなに間近で見たのは初めてだ。見れば見るほど不思議な気持ちになる。……これが、神様に与えられた力。


「消えた……」


 指輪は黒猫の手の平から完全にその姿を消した。その後、再び光の粒が集まる。それは光の棒を形作ると、パッと霧散した。

 そこに現れたのはさなちゃんの赤い色鉛筆だ。色鉛筆があった場所にはおもちゃの指輪がキラキラと月明かりを反射していた。座標交換は大成功ってことかな。


「よし、撤退する」


 黒猫は色鉛筆をそっとベランダに置いた。そうだね、早く帰って瞳に報告しないとね。僕は立ちあがろうとした……その時。


「ごちそうさまでした!」

「……っ!」

「わわわっ!」


 パッとさなちゃんの部屋の明かりがついた。夕食を食べ終えたさなちゃんが部屋に戻ってきたみたいだ。

 僕と黒猫は、団子になってベランダの隅に飛びのいた。

 部屋の中からは僕たちのことは見えない……はず。黙ってこんなところにいる後ろめたさのせいか、どこに隠れても見つかってしまう気がしてならない。

 さなちゃ~ん、もうちょっとゆっくり食べてくれていいんだよ! なんならデザートもう一品追加してもらってよ!

 焦る。パニック。あわわわわ。


 ちらりと横目で黒猫を見る。黒猫は非常事態でも冷静さを欠いていなかった。もしかしたら、この程度のことは想定の範囲内なのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ