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愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
秘密! 【八月二日 金曜日】
26/100

4

「これ」


 そう言って、玉井は僕の目の前に黒いボディバッグを放りなげる。おそるおそるバッグのジッパーを開けると、中には細々とした道具がいくつか入っていた。試しに適当な道具を取りだしてみる。

 何の変哲もないアナログ腕時計だ。ベルト部分はラバー素材で、かなり軽い。文字盤の横にあったボタンを押すと、文字盤のガラス部分がパカッと開いた。ガラスの中心には狙いを定めるための印がついている。


「こ……これはもしかして……時計型の麻酔……」

「違うから」

「じゃあ、蝶ネクタイ型の変声器は?」

「ないって」


 玉井がすかさずツッコミを入れる。僕と玉井の掛けあいを聞いていた瞳がくすくすと笑っていた。

 だって要さんのデスクの本棚にあるのは、頭脳は大人な小学生探偵が主人公の漫画全巻セットじゃないか! 例のあの麻酔銃だって勘違いしたって不思議じゃないよね!


「これは時計型ワイヤー」


 玉井は時計を自分の左手首につけると、天井に向けてボタンを押した。シュルルと小気味よい音を立ててワイヤーが飛びだす。むき出しになっている天井の金属柱にワイヤーは勢いよく巻きついた。


「す……すごいっ!」


 スパイみたいだ! これにときめかない男は男じゃない!


「当たり前だ、私の父さんが作ったんだから」


 玉井は臆面もなく要さんのことを自慢した。聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらい誇らしげに。


「もう一度ボタンを押すとワイヤーが自動で巻きとられる。この力を使えば体を移動させることができる。あまり高いところは無理だけど、普通の塀くらいなら余裕で越えられる」


 おお、と僕は感嘆の声をあげていた。素人レベルの発明なんてたかが知れている……そう思っていたけど、結構本格的だ。


「これは暗視マスク」


 次に玉井はバッグの中からマスクを取りだした。薄型のそれをペタリと僕の顔に張りつける。確かこれって……玉井が黒猫姿の時につけていたものと同じだ。


「スイッチ一つでカメラが切りかわる。暗いところでもこれで視界を保つことができるんだ」


 僕はマスクをまじまじと見つめた。しかし、ほんっと、よくできてるなあ。

 おもむろに玉井は本棚から分厚い本を選ぶと、投げつけるように僕に手渡した。表紙には『説明書』の文字。


「バッグに入ってる道具の使い方、それ読んで覚えておけよ。明日、あんたも私の仕事についてくるんだからな。そんなに難しい仕事じゃないから安心しろ」


 明日の仕事? そんなこと僕、初めて聞きましたよ?


「えと……僕も行くの? 玉井の仕事に?」

「そうだよ~。だって、この五日間考えているだけじゃ、あたしたちの仕事わからないでしょ? いろいろ体験してもらって、それから結論を出しても遅くないんじゃないかな」

「む……無理無理っ! いきなりなんて無理だよ~!」


 この人たちはいったい何を言ってるんだ! 僕みたいな初心者が一緒に行ったら……それこそ国家権力、警察機構に一発で捕まっちゃうじゃないかっ!


「難しくないって言ってるだろ。あんたはただ遠目に見てるだけでいい」


 僕たちが大揉めに揉めていると、部屋の扉が急に開いた。扉の向こうには坊主頭にバンダナを巻いた見慣れた立ち姿が。


「か……要さん!」


 要さんは強面でズンズンと僕の方に近づき、懐を探りだした。そこから飛びだすのはいったい……どんな拷問道具なんですか⁉

 僕はギュッと目をつぶった。


「わあ~~~! ごめんなさい、すみません! 消さないで~~!」

「採寸するだけだ」


 ダンディズムあふれる甘いボイス。僕はゆっくり目を開けた。要さんの手には、採寸用のメジャーが握られていた。かわいいピンク色だ。


「腕を水平にあげて」


 僕は言われるがまま、なすがまま。要さんはてきぱきと僕の体のすみずみまで測っていく。


「か……要さん?」

「瀬野くん用のボディースーツを作る。防弾、防水、耐衝撃。明日までには間に合うから心配しなくていい」


 要さんに心配しなくていいって言われると、なんだか安心するなぁ……じゃなくて。

 僕には同行を拒否する権利は皆無なんですね。僕はガクリと肩を落とした。

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