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「こっち。二人とも入って」
玉井は台所の奥にある棚のひとつをあけた。棚の中には何も入っていなかった。玉井はかがみこみ、床に敷いてあるマットを一気に取りはらう。
床には取っ手がついていた。玉井はそれを思い切り引き上げる。蓋をあけるとあら不思議、そこには地下へと続くハシゴがのびていた。
「こんなところに……」
まさか店の台所に隠し部屋があるなんて、誰も想像しない。
「私から先に降りる。次は瞳、最後にあんたが降りて」
穴の下は真っ暗で何も見えない。僕ははしごの位置を足で探りながら降りた。僕が落ちたら、瞳と玉井を巻きこんでしまうもんね、気をつけないと。
しばらく降りると、足先が床に触れた。固い地面に足が着くと、なんだかホッとする。
玉井が壁のどこかにあるスイッチを押した。カチッという音の後、天井から等間隔に吊り下げられている豆電球が光る。
ハシゴを降りた先には一本の細長い通路があった。十メートルほど向こうにあるのは、重々しい鉄の扉。
「いつも来る度に思うけど、ここって拷問部屋みたいだよねぇ〜」
瞳がフニャッと笑いながら背筋が凍ることを言った。まさか、これからあの手この手を使って僕を拷問するんじゃ……。
僕はどちらかというと嬲られるのは好きじゃない。でも女の子二人から責めたてられるなんてなかなかおいしいシチュエーションだよね……つい開眼しそうになっちゃうよ。
妄想全開の僕に気づいたのか、玉井が嫌悪感丸出しの表情を浮かべた。僕のことを一度は縛りつけようとしたくせに。
「別に、私はいいんだけど。今からこいつの記憶がなくなるまで痛ぶってやるっていうのも。その方が手っ取り早い」
「あははっ、心配しないで、優人くん、そんなつもりで言ったわけじゃないから」
短い沈黙。僕には冗談に聞こえません。
「まあ、記憶なくす選択をした場合は本物の拷問部屋にお世話になるかもしれないけどね」
「やっぱり瞳さん、怖いっ! そして、なんだかんだ言って、手際よさそうで嫌だっ!」
ギャアギャアわめく僕をほったらかして、玉井は扉を押しあけた。扉が開くと、自動的に天井のライトが部屋を照らしだした。
「うおぉ……」
そこに広がっている光景に僕は目を奪われた。
「ここは父さん専用の発明部屋。ま、父さんの趣味なんだ。私が仕事で使う道具はすべて父さんのお手製だ」
アメコミヒーローのアジトさながらの空間にワクワクが止まらない! やっぱり要さんは男のロマンの塊だったんだね!
瞳はこの部屋に入ったことがあるのか、至って通常通り、といった感じだ。スタスタと部屋の奥へと進むと、小さな丸椅子に腰をかけ、机の上にあったコミックスを読み始めた。要さんが愛読しているものなんだろう。
部屋の中は、何やら仰々しい機械であふれかえっている。要さんがこの機械を使いこなしてる姿は全然想像できなかった。