1
あれから僕には選択を決定するため、五日間の猶予が与えられた。
一晩だけじゃ結論は出なかった。瞳のことを忘れるのは嫌だったけど、もう一つの選択肢もハードな内容だったからだ。
瞳は僕に共犯者になることを要求してきた。危険な目に遭う二人の剣となり盾となれ、そういうことらしい。
身代わり、おとり、生贄、スケープゴート。
要するに、自分たちの存在を隠すための道具に……したいんだってさ。
*****
『本日、都合により休業します。 店主』
辻屋の前にはそんな張り紙が張ってある。でもそんなことはお構いなし。僕はそのまま店の扉を開けた。
「あ、きたきた~。優人くん、おはよう~!」
「遅い。いつまで待たせる気だ」
もうすでに先客が来ていた。しかも二人も。僕が一番乗りして二人を待っていてあげようと思ってたのに。紳士たるもの、レディーを待たせてはいけないのだ。
「あんまり遅いから、アイス食べてたよ! あ、ここは優人くんのおごりね! 前、ごちそうするって言ってくれてたもんね~」
そこは覚えてなくてもノープロブレムだったんだけどな、瞳さん。
驚くことに、瞳の正面にあるアイスの器は二つ。二つもごちそうするなんて、僕、言ってません!
「毎度。会計は後でしてもらうとして……とりあえず、昨日の話の続きだ」
「うんうん、そうだね」
アイスを食べた瞳はすっかりご満悦だ。僕はそれどころじゃないっていうのに……。
「こっちに来て。台所なんだけど、ここに入口があるんだ」
入口? まだ何か秘密でもあるのかな?
玉井は僕たちを台所へと案内した。コンロ際では夕子ばあちゃんが餡の仕込みをしている真っ最中だ。汗をかきながら、餡を焦げつかせないように必死で鍋をかき混ぜている。かなり必死なのか、僕たちが入ってきたことにも気づいてないみたい。
「夕子ばあちゃん、こんにちは。僕、手伝おうか? ほら、男手がいるだろ? 遠慮しないで!」
お年寄りには親切にしなくっちゃね! 僕はそっと夕子ばあちゃんに手を差しのべた、が。パチンと夕子ばあちゃんは僕の手を強く払いのけた。
あれ? お年寄り扱いしたのが気に障ったのかな? それとも、男手なんていらないってことなのかな?
夕子ばあちゃんは僕の方を見向きもせず、淡々と仕込み作業を続けている。
「……お前さんが那智と仕事するのかい」
夕子ばあちゃんの声色はこころなしか……トーンが低いように感じた。いや、こころなしどころじゃないね、がっつり低い。黄泉の国から這いでてきたんじゃないかってくらい低い。